理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-461
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骨・関節系理学療法
腰椎変性疾患術後患者のバランス能力の検討
雫田 研輔青木 幹昌高橋 友明田島 泰裕畑 幸彦平林 洋樹
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抄録

【はじめに】腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの腰椎の変性疾患に対する手術的治療には一般に後方固定術や後方除圧術が選択されることが多いが,術後の弊害として隣接椎間関節の可動性に影響をもたらすとの報告があり,脊柱可動性の低下が転倒の原因や危険因子になるとの報告もある.しかし,腰椎変性疾患術後のバランス能力に関する報告はわれわれの渉猟しえた範囲内ではなかった.今回われわれは,腰椎変性疾患に対する手術が術後の患者身体能力に及ぼす影響を明らかにする目的として,バランス能力,脊柱の可動性および膝筋力について調査したので報告する.
【対象と方法】対象は当院において腰椎変性疾患に対し,観血的脊椎手術を施行され,本研究の趣旨を説明し同意を得られた9例,検査時年齢は平均68歳(57~81歳),性別は男性4例女性5例,利き手は全例右側であった.内訳は.後方固定術3名,後方除圧術5名,椎間板ヘルニア切除術1名であった.なお術後重度な運動麻痺や感覚障害を合併した患者は除外した.方法は,手術前・術後3週時において,静的バランスの指標として前・側方へのFunctional Reach Test(以下FRT),動的バランスの指標としてTimed UP and GO test(以下TUG),脊柱可動性の評価として胸腰椎のROMまた,膝関節60°位における屈曲・伸展の等尺性筋力を,BIODEXを用いて測定した.手術前・術後3週の間でFRT,TUG,ROMおよび膝筋力についてMann-Whitney検定を用い,危険率0.05未満を有意差ありとした.
【結果】FRTは,前方FRは手術前が23.2±5.0cm.術後3週が17.1±5.7cm.右側FRは術前が20.1±2.8cm.術後3週が14.4±4.2cm.左側FRは手術前が18.4±3.0cm,術後3週が14.2±5.4cmであり,術前と術後3週のすべての方向でFRTの値は高齢者の基準とされている値より低値であった.前方FRと右側FRが術前より有意に低下していた(p<0.05).胸腰椎ROMは胸腰椎前屈方向のみ手術前49±2.4°,術後3週44±4°で有意に低下した(p<0.05).TUGは,手術前が12.4±3.7s.術後3週が13.9±6.8sであり,いずれも動的バランスの低下を軽度認めたが,術前後で有意差を認めなかった.膝筋力は,右膝伸展筋力は手術前が127.5±21.5%.術後3週が129.8±22.5%.左膝伸展筋力は手術前が121.7±20.6%.術後3週が123±22%.右膝屈曲筋力は手術前が67.3±19.6%.術後3週が66.5±19.8%.左膝屈曲筋力は手術前が62.1±18.9%,術後3週が61.1±18.4%であり,術前後で有意差を認めなかった.
【考察】術前と比べ術後3週において前方FRと右側FR,胸腰椎前屈方向の可動域が有意に低下し,動的バランスは維持されていたが,静的バランスでは術後に有意な低下を認めた.また,高橋らは前方へのFRTのみならず,側方へのFRTは運動器不安定症の運動機能の評価方法として使用し得ると述べており,本研究でも利き手側の右側FRのみ低下していたのは興味深く今後検討課題としたい.

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© 2009 日本理学療法士協会
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