抄録
【はじめに】腰椎椎間板ヘルニア症例(以下ヘルニア)は腰椎前弯度が低下することが一般的に言われている.ヘルニアに対する理学療法において、根性疼痛が悪化しない範囲で腰椎の生理的前弯を獲得させていくことが大切と考えている.臨床場面では、L4/L5ヘルニア症例(以下L4/L5群)とL5/S1ヘルニア症例(以下L5/S1群)を比較すると腰椎前弯度に差があり、L5/S1群の方が理学療法に難渋することが多い印象を受けている.今回は、単純X-P像の計測値から病態の高位別により腰椎前弯度に差異があるかを検討した.
【対象】対象は2002年から2008年10月まで当院で理学療法を実施した腰椎椎間板ヘルニア51症例のうち、高位レベルに一致した下肢痛、SLRテスト陽性所見を呈していた25症例であり、愁訴が腰痛のみの症例、ダブルヘルニア症例は対象から除外した.L4/L5群は12例(平均年齢41.5±13.0歳、男性8例、女性4例)、L5/S1群は13例(平均年齢38.8±7.8歳、男性8例、女性5例)であった.なお、個人情報は、各種法令に基づいた当院規定に準ずるものとする.
【方法】診療時に放射線技師により撮影されたX-P写真から腰椎前弯角(以下LLA)、腰仙角(以下LSA)を計測し、LLAとLSAから調和度(LLA/LSA)を求めた.L4/L5群12例とL5/S1群13例のLLA、LSA、調和度を比較検討した.統計学的解析にはunpaired Student’s t-testを用い、有意水準を5%未満とした.
【結果】LLA平均値はL4/L5群21.3±7.2°、L5/S1群14.1±6.9°、LSA平均値はL4/L5群32.6±8.1°、L5/S1群23.8±7.6°であった.LLA、LSAとも2群間における有意差が認められた.調和度の平均値はL4/L5群0.65±0.14、L5/S1群0.58±0.17であり、2群間に有意差を認めなかった.
【考察】今回の検討は、臨床で撮影されていたX-Pを用いたため撮影条件が側臥位であるということを考慮しなければならないが、結果よりL5/S1群で腰椎前弯度が低下していることがわかった.L5/S1群はヘルニアが仙骨上面にあるため、疼痛回避に仙骨傾斜角をより少なくしなければならず、それに伴い腰椎前弯角も少なくなりL5/S1群で腰椎前弯度が低下していると推察される.
今回の結果から、ヘルニアの理学療法を施行する際に、ヘルニア高位レベルの違いによって腰椎前弯度に差がでていることを考慮する必要性が示唆された.