抄録
【目的】
第63回国体の某県水泳チームには医科学委員として医師2名(常時1名同行)、理学療法士(以下PT)2名、トレーナー(TR;柔道整復師・針灸師)1名が関与した.委員は現地合宿から競技最終日まで5日間同行し、医師は外傷の診断治療と健康管理、TRはコンディショニングと鍼治療、PTはコンディショニングと理学療法評価・治療手技を実施した.今回全日程を競泳チームに同行したPTの記録を後視的に分析し、競技現場におけるPTの関わりについて検討する.
【方法】
選手は男女各13名計26名で、このうち期間中にPTが関わったのは20(男9、女11)名であった.この20名を対象として、PTの記録から対処した延べ人数、主訴と評価・プログラムおよびその効果を集計し分析した.実施内容の公表については選手から承諾を得た.
【結果】
PTが対処した延べ人数は47(男23,女24)人、件数では63(男38,女25)件であった.主訴は20名中12(男4,女8)名が痛みで、そのうち4(男1,女3)名は筋疲労も伴い、残り8(男1,女7)名は筋疲労だけであった.痛みは14(男6,女8)件で、内訳は腰痛8件、頸痛2件、肩痛、水着の不適合による両側そけい部痛(筋肉痛)、プールサイドでの転倒による足関節捻挫、練習中にプール壁で手背を打撲したための腱鞘炎が各1件であった.疲労部位は、肩・肩甲骨周囲が7件、下肢4件、全身4件、頸部から胸背部3件、腰部3件、殿部と上肢が各1件であった.外傷以外の痛みでは、関節可動域制限や特定の筋が短縮している部位の運動痛、あるいは制限部位に近接した過可動性がある部位に筋スパズムと過敏性が認められた.筋疲労でも可動域が低下した関節や短縮した筋と過可動性の部位があった.外傷による足関節捻挫と手背打撲に対して医師の指示の元に関節モビライゼーション、テーピング、アイシング、湿布を行い、競技時には支障がなかった.関節可動域制限がある部位に対しては関節モビライゼーション、筋の短縮やスパズム、疲労に対してはマッサージ、ストレッチ、PNFなどで対処し、競技時には症状を改善できた.
【考察】
外傷による急性期の痛みには、医師の指示のもとで理学療法を実施した.その他の痛みや疲労は評価と実施手技の効果から、特定部位の可動域制限とその周辺筋の過剰なあるいは異常な使い方による痛みと推察できた.このような可動域制限や過可動性による症状は理学療法評価と試みの治療手技で確認できた.競技大会に同行して、コンディショニングだけでなく医師の指示のもとに理学療法を実施したり、痛みや疲労に対して徒手療法を含めた理学療法で適切に対処したりすることが多かった.スポーツ現場でPTは他職種と連携して理学療法の評価・治療手技を用いてより積極的に関わっていく必要性がある.