抄録
【目的】
人工骨頭置換術後に深部感染を発症すると、感染の沈静化を待ち二期的再置換術を行うのが良いとされている.しかし本人の選択により人工骨頭を抜去したまま代替物を入れない、いわゆるGirdlestone手術となった症例に対する報告は少ない.大腿骨頭を抜去した症例のADLや歩行能力はどこまで回復するのだろうか.今回我々は1症例の短期的予後を報告する.
【症例紹介】
60歳代男性.平成19年11月29日転倒し右大腿骨頸部骨折の診断で当院入院となる.既往歴は脳梗塞右不全麻痺.倫理的配慮として理学療法経過中に本人へ症例報告する旨を説明し了解を得ている.
【経過】
平成19年12月7日右人工骨頭置換術施行.23日に脱臼発生する.整復試みるもouter cupの脱転を認め、25日観血的脱臼整復術施行.平成20年2月10日血液検査及びMRIにて術部の深部感染症と診断される.20日人工骨頭抜去および持続洗浄を開始する.3月10日持続洗浄チューブを抜去する.18日よりリハビリ室での理学療法を開始する.
【骨頭抜去後のPT経過】
術後1週でベッド上筋力強化開始.術後4週目より可動域、筋力強化、起居動作練習、平行棒起立を開始.翌日より平行棒歩行開始.術後7週目より松葉杖歩行開始.術後11週目に補高付きの坐骨支持付き長下肢装具を使用して松葉杖歩行を行う.術後19週目に短下肢装具に変更する.術後21週目片松葉杖歩行開始する.術後28週目短下肢装具を外して足幅の広いワイド靴に変更する.術後30週目、総入院日数288日で養護老人ホームへ転院となる.実用歩行は両松葉杖歩行で屋内外自立あった.院内ADLは修正自立であった.
【PT評価】
(骨頭除去後初期→退院時)ROM:股関節屈曲100°→100°伸展-15°→0°、外転15°→20°、内転-10°→15°MMT:股関節屈曲伸展外転内転2-→屈曲2+、伸展外転内転2.脚長差:未実施→5cm.疼痛:運動時痛→なし.最大荷重:toe touch→37kg.歩行能力:平行棒起立→両松葉杖歩行自立で耐久力は200m以上可能.階段昇降:不可能→監視.BI:45→95点.退院時JOAscore右66点.
【考察およびまとめ】
Girdlestone手術法の利点として除痛効果や可動域が良好であることなどが挙げられている.一方、欠点としては脚長差や股関節の不安定性が報告されている.本症例も同様に疼痛がなくなり、ADL上に支障となる制限もなく、ほとんどのADLを獲得できた.レントゲンで荷重状態を確認したが、骨性支持の状態にはない股関節であった.この状態で体重負荷できる理由は、軟部組織である関節包や筋、靭帯により支えられ、荷重しているのではないかと推測した.歩行は松葉杖歩行で屋内外歩行が自立できた.股関節の不安定感は残るが、かなりのADL及び歩行能力が回復できることが判明した.