理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-345
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骨・関節系理学療法
人工膝関節置換術後患者における痛み対処方略
田中 彩乃岡 浩一朗石阪 姿子吉田 留美子立石 圭祐八木 麻衣子岩崎 さやか杉原 俊弘別府 諸兄
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抄録
【はじめに】人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty;TKA)後において,術創部周辺や筋肉の痛みなど術前とは異なる疼痛が問題となる症例を経験する.Wyldeらは,TKA後にも医学的に説明のつかない慢性的な痛みから解放されない症例がいることを指摘した. Folkmanらは外的・内的欲求やそれらの間の葛藤を克服し,耐え,軽減させるためになされる,認知的・行動的努力を「対処(coping)」と定義している.欧米ではそれらをもとに「自分自身で痛みをうまく管理する」といった認知行動面に関する研究が報告され,変形性膝関節症患者の痛み対処方略に関する報告も散見される.
【目的】TKAが患者の痛み対処方略にどのような影響を与え,また痛み対処方略の変化が痛みや身体活動の自己評価とどのような関連があるのかを検討すること.
【方法】対象は変形性膝関節症に対しTKAを施行した患者17名(男性2名,女性15名,平均年齢73.7±5.4歳)であった.評価項目は,痛みの評価はVisual Analogue Scale(VAS),痛みへの対処方略の評価はCoping Strategy Questionnaire日本版(CSQ),認知面からみた身体活動の評価は歩行に関するセルフ・エフィカシー(SE)を採用した.CSQは認知的対処方略と行動的対処方略の2つの概念から構成され,認知的対処方略には,「注意の転換」,「思考回避」,「自己教示」,「無視」,「願望思考」,「破滅思考」の6つの下位尺度があり,行動的対処方略には,「痛み行動の活性化」と「他の行動の活性化」の2つの下位尺度がある.得点が高いほどその対処方略を採用していることを示す (最高12点,最低0点) .測定時期は術前1週間以内と退院時(術後4~5週)とした.統計学的解析として,各項目の前後の差の検定にはWilcoxonの符号付き順位検定を,各項目の変化量とその関連についてはSpearmanの相関係数を使用し,有意水準は5%未満とした. 本研究は聖マリアンナ医科大学倫理委員会の承認を得て実施された (承認番号第1313号) .
【結果】各項目は術前→術後の順に中央値(四分位範囲)で示す.VASは72(38)→40(68)点と術前後で有意に改善した(p<0.05).CSQは「注意の転換」4(5.5)→6(6.5),「思考回避」7(5.5)→6(6.5),「自己教示」9(7.5)→6(4),「無視」6(5)→8(4.5),「願望思考」8(8.5)→9(6),「破滅思考」4(7)→3(7.5),「痛み行動の活性化」5(6.5)→6(5.5),「他の行動の活性化」9(2)→8(6)となり,CSQの各下位項目においては術前後に有意な変化はみられなかった.SEは12(6)→14(8)となり,術前後で改善する傾向にあったが有意差はなかった(p=0.056).また「注意の転換」,「思考回避」,「無視」の各変化量とSEの変化量の間に有意な相関を認めた.(rs=0.543~0.689)
【考察】術後のVASや歩行に関するSEに改善傾向がみられ,これらはTKAの効果と思われた.CSQは個人差が大きく,術前後で有意差はみられなかった.また変化量の検討から,疼痛そのものよりも身体活動のSEと痛み対処方略との間に関連があることが示唆された.
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© 2009 日本理学療法士協会
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