抄録
【目的】臨床上、大腿脛骨関節(以下FT関節)の異常回旋の影響で可動域制限や動作時のメカニカルストレスを呈している症例を経験する.また、脛骨異常回旋運動についての報告は散見されるが、マルアライメントとの相互関係についての報告は少ない.静的アライメントの評価は重要であるが、FT関節の回旋評価は臨床的に簡便で信頼性のある指標はなく、主観的評価に頼っている.通常、Q-angleは大腿四頭筋収縮による外方ベクトルや前額面における外反膝の評価に用いられるが、脛骨外旋は脛骨粗面の外方移動を伴いQ-angleの増大をもたらすことにより、脛骨回旋評価としても有用であると考えられている.そこで今回、健常者を対象に主観的脛骨外旋評価とQ-angle測定に関連性があるか調査し、FT関節の回旋評価としてQ-angle測定に妥当性があるかを検討した.
【対象】対象は健常成人13名、年齢平均42.8歳.被験者には研究主旨および研究方法について説明し、承諾を得て行った.
【方法】最初に左右どちらが脛骨外旋しているか主観的に評価をした.次に左右のQ-angle測定を行った.測定結果は第三者に記録され、測定終了時まで検者に知らせないことで、先入観に基づく測定バイアスを排除した.測定肢位は、背臥位にて膝関節伸展位、股関節内外中間位とした.ランドマークは、Serge Van Sint Jan の触診法に基づき決定した.測定は市販のプロトラクターの軸を定規で延長した自作の角度計で測定した.測定回数は1回とし、1度単位で角度を読み取った.なお、我々の先行研究によりQ-angle測定の級内相関係数は、0.8以上で再現性は良好であった.統計処理は、主観的脛骨外旋と評価したQ-angle値と反対側のQ-angle値を比較するために対応のあるt検定を用いた.
【結果】主観的脛骨外旋側の平均±標準偏差は、17.2±3.24°、反対側は15.1±3.25°であった.主観的脛骨外旋と評価したQ-angle値が反対側のQ-angle値より大きく、有意差を認めた(P<0.05).
【考察】Q-angleとは、上前腸骨棘と膝蓋骨中心から結んだ線と脛骨粗面から膝蓋骨中心を結んだ線がなす角であり、脛骨粗面が脛骨上で外方に位置していればQ-angleは大きくなるといえる.今回、主観的脛骨外旋側と反対側の差は概ね2°、差の大きい者では8°あった.今回の結果から、主観的脛骨外旋評価とQ-angle測定に関連性があると示され、臨床場面でQ-angle測定がFT関節回旋評価の一指標として示唆された.しかしQ-angleは、前額面の変形や前捻角、大腿膝蓋関節の偏位が測定値を左右するため個人差も大きく、それらを考慮した解釈が重要となる.脛骨の回旋は距骨下関節の動きとも関連するため、今後は荷重位での評価も含め、CT像など水平断の画像との関連も調査し、FT関節回旋評価としてのQ-angle測定の臨床応用に関し検討していきたい.