抄録
【目的】腰椎術患者では末梢神経障害により足関節周囲に筋力低下・感覚障害を伴い、足機能が低下し歩行・バランスや日常生活活動などに障害を起こすと考えられる.脊髄圧迫性の障害者では、足機能の評価として足関節10秒テスト(Foot Tapping Test:FTT)が歩行と相関があることが報告されている.今回われわれは、腰椎術後患者でFTTと筋力・歩行・バランス・日常生活活動との関係を明らかにし、「FTTが腰椎術後患者の足機能の評価として有用か?」を検討したので報告する.
【方法】対象は当院で腰椎の手術を受けた入院患者46名(男性24名、女性22名)であり、その内訳は固定術35名、除圧術11名で、平均年齢は59.6±14.5歳であった.なお、研究にあったては施設内で許可を得たのち、対象者に説明を行い書面で同意を得た.検査項目は、1.FTT、2.筋力:前脛骨筋・下腿三頭筋をMMTで、大腿四頭筋はハンドヘルドダイナモメーターで測定した.3.歩行:最速10m歩行の所要時間、4.バランス:30秒を上限とした開眼および閉眼での片足立ち保持時間、およびタイムドアップアンドゴーテスト(TUG)、5.日常生活活動:Functional Independence Measure(FIM)の5項目を測定した.FTTの方法は、膝・股関節90度程度の座位で、足接地の状態から10秒間可能な限り早く底背屈(地面をタッピング)できる回数を数えた.FTTは左右両方行い低い値の方を採用し、筋力・片足保持時間についてもそれと同じ側を採用した.また、測定は退院時に行った.統計は、FTTと他の検査項目との相関をSpearmanの順位相関係数を算出し、有意水準を5%未満とした.
【結果】)FTTの中央値は27回(0~50回)であった.FTTと各測定値との相関は、前脛骨筋筋力:r=0.52(p<0.01)、下腿三頭筋筋力:r=0.48(p<0.01)、大体四頭筋筋力:-0.04(p=0.78)、最速10m歩行の所要時間:r=-0.46(p<0.01)、開眼片足立ち保持時間:r=0.64(p<0.01)、閉眼片足立ち保持時間:r=0.63(p<0.01)、TUG:r=-0.50(p<0.01)、FIM:r=0.33(p<0.05)であった.FTTは大腿四頭筋筋力以外の測定値と有意な関係を認めた.
【考察】FTTはストップウォッチ1つあれば特別な器具は要せず簡便な評価法である.また、今回の結果からは、FTTは腰椎術後患者の足部の筋力・歩行速度・バランス・ADLと有意な相関を示しその有用性が示された.特に片足保持時間とは比較的高い相関を示し、バランスに対する足周りの機能の重要性が再確認された.今後は、介入の評価指標となり得るか?あるいは、腰椎術後患者以外の方の足機能の評価として用いられるか?を検討する必要がある.