理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-420
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骨・関節系理学療法
未固定解剖標本を用いた烏口上腕靭帯の伸張肢位の検討
泉水 朝貴青木 光広田中 祥貴内山 英一藤宮 峰子
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抄録

【目的】野球やバレーボールのように上肢の大きな外転や回旋運動を有するスポーツ動作において,肩関節の可動性は重要な要素である.肩関節の可動域制限はパフォーマンスを低下させるだけでなく,肩関節やその近位関節の障害を惹起する.特に烏口上腕靱帯の短縮は外旋可動域の制限や上腕骨頭の後方または下方への移動を制限し,肩峰下impingementを誘発するとされている.このような障害を予防・改善するためには烏口上腕靱帯の伸張肢位を明らかにすることは重要と考えられる.
【方法】実験には未固定解剖体7体から採取した肩甲上腕関節7標本を用いた.靱帯の伸張距離計測は小形変位測定センサーを用い,伸張距離を肢位変化に従い計測した.角度計測には電磁気式3次元動作解析装置を用いた.測定肢位は肩甲骨面挙上0°・30°・60°と屈曲,外転において30°・60°,伸展30°と伸展30°に内転を加えた9肢位に,内旋10°から10°ずつ,外旋を行い最大外旋50°までの7点で計測を行った.測定手順は靭帯の基準長L0を決定し,その後L0の値を開始値として各肢位における靱帯の伸び率を計測した.本実験では靭帯の伸張を伸び率として表すため,数値が正の値を示す場合を伸張が生じたものとした.統計解析には一元配置反復測定分散分析とDunnettのpost hoc testを用いた.有意水準は5%に設定した.
【結果】正の伸び率を示した肩関節肢位は挙上0°での外旋30°(2.75%),40°(5.68%),50°(7.27%),伸展30°での外旋30°(0.43%),40°(3.04%),50%(4.20%),伸展30°に内転を加えた肢位では外旋10°(1.57%),20°(2.65%),30°(4.09%),40°(4.67%),50°(4.78%)であった.L0から有意に伸張が得られた肢位は挙上0°での外旋40°,50°と伸展30°での外旋50°,伸展30°に内転を加えた肢位では外旋30°,40°,50°の肢位であった.
【考察】これまで,烏口上腕靱帯は外転0°から60°での外旋や下方への牽引等で伸張すると報告されている.しかし,本研究では挙上0°や伸展30°さらに伸展30°に内転を加えた肢位での外旋で靭帯の伸張が得られ,30°以上の屈曲・外転時の外旋および内旋では伸張が得られなかった.Pouliartら(JSES2007)によれば,烏口上腕靱帯は前上方部が外旋を制限し,後上方部が内旋を制限すると述べている.我々の計測部位はPouliartらの前上方部に相当すると考えられ,烏口上腕靭帯の前上方部をストレッチするためには下垂位周辺での外旋が有効であると考えられる.また,後上方部は前上方部により覆われるため正確な計測は行えないが,下垂位周辺での内旋を実施するとストレッチされる可能性がある.上肢を用いるスポーツ動作において,烏口上腕靱帯の短縮が肩峰下impingementを誘発する因子となるか更なる検討が必要と考えられる.

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© 2009 日本理学療法士協会
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