抄録
【目的】肩関節外旋運動の制動における上関節上腕靱帯(以下,SGHL)の役割,とくに外旋の制動について,局所解剖学的に観察することを目的とした.
【対象及び方法】愛知医科大学医学部において『解剖セミナー』に供された解剖実習用遺体3体6肩とした.背臥位および腹臥位にて胸部・背部の皮膚を剥離し,大胸筋・小胸筋・三角筋・僧帽筋・肩甲挙筋・前鋸筋・菱形筋等を切断除去し,肩甲骨・鎖骨・上腕骨を温存した状態で上肢帯を体幹より切離した.上腕骨は遠位部で切断した.腱板・関節包を剖出後,肩甲下筋を可能な範囲で除去した.さらに肩甲下筋腱を関節包から慎重に剥離し,SGHLを剖出した.その際,関節包・烏口上腕靱帯(以下,CHL)は可能な限り温存した.
肩関節外旋角度の測定は,SGHLを温存した状態(温存時)とSGHL切断した状態(切断時)において,肩甲骨を前額面に対し30度の角度をつけて万力に固定し,肩関節下垂位・外転45度位・75度位で実施した.その際,肩関節の外旋は徒手的に行い,角度の測定にはプラスチック製角度計を用いた.
なお,解剖の実施にあたっては,愛知科大学医学部解剖学講座教授の指導の下に行った.
【結果】肩関節外旋角度は,肩関節下垂位では温存時35.0±12.6°,切断時53.3±12.5°,45度外転位では温存時57.5±19.4°,切断時75.0±22.8°,75度外転位では58.3±20.2°,切断時70.8±28.0°であった.
【考察】肩関節外旋の制動について,肩関節下垂位では主にSGHLおよびCHLが,外転位では主に前下関節上腕靱帯が作用するとされている.温存時と切断時の外旋角度を比較すると,肩関節下垂位が最も大きく、45度外転位,75度外転位の順に小さくなる傾向を示した.このことから,諸家の報告通りSGHLは肩関節下垂位において肩関節外旋制動装置として重要であることが示唆された.しかし,75度外転位においても温存時より切断時の方が肩関節外旋角度は増加する傾向を示したことから,SGHLが外転位でもある程度は制動装置として作用するのではないかと考えられた.今後,症例数を増やし検討を加えたい.