抄録
【目的】
我々は腓腹筋に対するストレッチングが筋形状変化に及ぼす影響を超音波法にて検討し,足関節中間位と比較して背屈位で羽状角が減少することを第42回本学会で報告した.しかし他動的な非荷重でのストレッチングの検討であり,立位など実際の日常生活を想定した荷重時のストレッチングの検討と筋腱移行部の移動量の確認が課題となった.
本報告の目的は腓腹筋に対して非荷重と荷重した状態でのストレッチングをそれぞれ行い,その際の筋形状変化の違いを超音波法で解析することである.
【対象と方法】
下肢に傷害の既往がない健常男性14名(年齢23.9歳,身長168.9cm,体重61.7kg),14脚を対象とした.測定は全て右下肢とした.全ての対象に実験の趣旨及び方法についてヘルシンキ宣言に沿った研究であることを十分に説明し同意を得てから行った.
先行研究の方法に準じて,背臥位でのトルクマシーンによる他動的な足関節背屈位保持を非荷重ストレッチングとした.また,背屈位保持となる斜面板上での膝伸展位の立位を荷重ストレッチングとした.非荷重,荷重ストレッチングの足関節背屈角度と施行時間はいずれも20度と3分に設定した.ストレッチングは各々の影響を取り除くために,24時間以上の間隔を於いてランダムに実施した.
超音波法による測定は7.5MHzリニア式プローブを用いて,腓腹筋の筋腱移行部を標識点とした矢状面画像をBモードで撮影した.まず,足関節中間位での撮影を行い,その後背屈位保持ストレッチングでの画像を撮影した.超音波法から得た画像は先行研究と同様に画像処理ソフトScion Imageの角度,距離測定ツールを用いて,羽状角と筋腱移行部移動量を測定した.
統計学的分析は足関節中間位での羽状角と筋腱移行部を基準とした背屈位での変化について分散分析後,TukeyのHSD法にて有意水準を5%未満として検定した.
【結果と考察】
筋腱移行部は非荷重,荷重ストレッチングのいずれにおいても足関節背屈位で遠位へ移動した.一方,羽状角は非荷重ストレッチングでは中間位と比較し背屈位で減少したのに対して荷重ストレッチングでは有意差を認めなかった.
筋腱移行部は筋収縮時に筋腹へ,伸張時に遠位へ移動し,羽状角は筋収縮時に増大,伸張時に減少するとされる.今回,非荷重ストレッチングでは羽状角の減少を認めた.しかし荷重ストレッチングでは減少すべき羽状角に変化を認めなかった.これは立位保持として腓腹筋が筋活動していたためと考えられる.また筋腱移行部が筋腹に移動することなく,非荷重ストレッチングと同様に遠位部へ移動していたことから,筋-腱の構成体としては筋活動を伴った筋腹のストレッチングが行われている可能性が考えられる.よって今後,停止部のみではなく起始部での検討も必要と考える.