理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-449
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骨・関節系理学療法
野球肘におけるTotal Rotation評価の有用性について
―平成18・19年度長野県高校野球メディカルチェック事業からの分析―
青木 啓成児玉 雄二山岸 茂則長崎 寿夫小池 聴村上 成道
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抄録

【目的】野球肘は肘関節のみでなく、肩関節や体幹機能評価の重要性が着目され、さらには三次元的分析から投球フォーム指導の必要性が報告されている.また、野球肘の危険因子として肩関節の内旋制限を危惧する報告があるが、投球障害肩選手にも同様の所見認めることが多く、肘障害の特異性とは言い難い.我々は第5回肩の運動機能研究会にて投球障害肩の評価における上肢・体幹・下肢のTotal Rotation(以下TR)の有用性を報告した.今回は、その評価方法を野球肘に導入した結果、興味ある知見を得たので報告する.
【対象】平成18・19年度長野県理学療法士会高校野球メディカルチェック(以下MC)に参加した選手284名を分析対象とした.調査の結果、投球時痛がないものを障害なし群(NP群:45名)、投球時に肘関節痛を有すものを肘障害群(肘痛群:59名)とした.MCは長野県高等学校野球連盟の主催で実施され、選手・指導者にはMCデータの使用に関して説明し、同意を得た.
【分析方法】以下の2項目について検討を行った.
1、NP群と肘痛群の肩・肘・前腕・股関節可動域の比較検討.
2、投球動作を信原らの提案する、Early Single Standing phase(ESS)、Double Standing phase(DS)、Late Single Standing phase(LSS)の3つの位相分類を基に、それぞれを、1)ESS:投球側肩内旋(2nd)・股内旋・前腕回内、体幹投球側回旋 2)DS:投球側肩外旋(2nd)・前腕回外、投球・非投球側股内旋、体幹非投球側回旋 3)LSS:投球側肩内旋(3rd)・前腕回内、非投球側股内旋、体幹非投球側回旋とした.各位相でのROM角度の総和を1)~3)のTRとした際のNP群と肘痛群のTRの比較検討.
【結果】1、投球側前腕回内はNP群79.3°、肘痛群73.6°で有意差を認めた(P<0.05).その他の肩・股関節可動域では2群間に有意差を認めなかった.2、TRは1)にてNP群191.4°、肘痛群179.2°で有意差を認めたが(P<0.05)、2)はNP群273.7°、肘痛群269.4、3)NP群161.4°、肘痛群152.3°であり、2群間に有意差を認めなかった.
【考察】肘痛群で投球側前腕回内は有意に制限されていたが、TRはESSのみで有意差を認めた.今回の結果から、ESSのTR可動域制限は軸足や投球側上肢の機能障害に関与していると考えられ、同phaseにおける運動連鎖の破綻の影響を投球側上肢末梢が受け、回内制限にもつながっていると推察された.野球肘の評価においても、肘や肩関節などの単独関節評価のみでなく体幹・股関節を含めたTR評価の有用性が示唆された.今後、障害予防の側面においても、メディカルチェックなどにてTR評価の有用性を検証していきたいと考える.

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© 2009 日本理学療法士協会
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