理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-525
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内部障害系理学療法
造血幹細胞移植後の自宅での日常生活動作について
三澤 加代子川崎 桂子高橋 友明畑 幸彦
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抄録
【はじめに】
造血幹細胞移植では,前処置としての抗癌剤投与,無菌室での長期に渡る隔離や安静,さらに合併症などにより身体活動が制限され,全身的な持久力低下,柔軟性低下などの重度な廃用症候群が生じる.これらの状態は,患者の日常生活動作(以下ADL)を低下させQOLも低下させるが,造血幹細胞移植患者の退院後の具体的なADL障害に関する報告はほとんどない.
今回われわれは,造血幹細胞移植後患者の具体的なADL障害を明らかにする目的で,自宅退院後にアンケート調査を行ったので報告する.
【対象と方法】
対象は当院で造血幹細胞移植を施行され,入院中にリハビリを実施し自宅退院され1年以上経過した患者で,アンケート調査の主旨を説明し同意を得られた14例とした.調査時の年齢は44.5±11.9歳,性別は男性7例,女性7例であった.疾患の内訳は悪性リンパ腫6例,骨髄異形成症候群・多発性骨髄腫・再生不良性貧血各2例,非ホジキンリンパ腫・ホジキン病各1例であった.なお,退院直前の身体機能(握力,30秒椅子立ち上がりテスト,6分間歩行距離,指床間距離及び片脚立位時間)では,入院時と比較して有意差を認めなかった.
方法は,自宅退院後のADLについて自己記入によるアンケートを実施し,ADL障害が軽快した時期及び改善が遅かった具体的な動作を調べた.ADL障害が改善した時期について有意差検定を行った.Mann-WhitneyのU検定を用い,危険率5%未満を有意差ありとした.
【結果】
ADL障害が最終的に軽快した時期は,4.0±1.8ヵ月であった.改善に最も時間がかかった動作は更衣動作の際の片脚立位,階段昇降,床・畳からの立ち上がり,及び浴槽またぎ動作の4つの動作で,それらが軽快した時期は,それぞれ4.2±3.8ヵ月,4.3±3.8ヵ月,5.4±4.1ヵ月,5.9±4. 7ヵ月であり,それぞれの患者数は3/14例,2/14例,4/14例,4/14例であった.
これら4つの動作のADL障害の軽快時期においては有意差を認めなかった.
【考察】
今回の結果から,大部分の症例で4ヵ月~6ヵ月の長期にわたってADL障害が残存していたことがわかった.
更衣動作の際の片脚立位,階段昇降,床・畳からの立ち上がり及び浴槽またぎ動作の4つの動作がADL障害の主なものであったが,これらに共通するものとしては,体幹バランスや体幹・下肢筋力の低下が挙げられると思われた.
造血幹細胞移植後のような,重症ハイリスク疾患による全身体力消耗状態には,ADLの自立を促進させることが生活全体の活発化をもたらすとされているため,今後は今回の研究で分かった具体的なADL障害に対し積極的なアプローチを再考したい.
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© 2009 日本理学療法士協会
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