理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-537
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内部障害系理学療法
血糖コントロール中に糖尿病性hemichoreaを呈された一症例
―温泉プールを利用したアプローチ―
森本 信三赤木 誠土佐 和史中井 啓介小口 健
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抄録

【はじめに】
糖尿病性hemichoreaは、一側上下肢の近位部または遠位部、あるいは双方の不随意運動で、その反対側の視床下核あるいは線状体における器質性病変や代謝障害で起こるといわれている.また、choreaは高血糖のみならず低血糖でも誘発されるといわれているが、その報告例は少なく、その病態や発症機序については不明な点が多いと報告されている.
今回、血糖コントロール目的での入院中に左choreaが出現し、歩行能力向上により在宅復帰に至った症例を経験したので報告する.
【症例紹介】
今回の発表について内容を説明し、本症例と家族の同意を得た.症例は70歳代後半、女性.平成20年1月10日の当院受診時にHbA1c14.5%、血糖値607mg/dl.1月15日に本院入院となる.入院前、約2ヶ月間という長期臥床により立位を伴うADLが低下していた為、1月22日よりリハ開始となる.
【理学療法経過】
理学療法開始から2週頃より、歩行練習中に「歩きにくい」という訴えが聞かれ始め、膝折れや膝のロッキング現象、左膝関節の疼痛及び左下肢の測定過大もみられはじめる.歩行中の訴えに対して弾性包帯やサポーターを使用したところ左膝関節の疼痛は軽減されたが、症状の改善はみられなかった.その後、左上下肢のchoreaが著明に出現した(HbA1c11.4%、血糖値180mg/dl).歩行練習中に左膝関節の疼痛、及び「転びそう」という訴えがあったので、主治医と相談しバランス向上・リラクセーション・代謝の亢進を目的に温泉プールエクササイズを実施した(理学療法開始約2ヶ月).その後、発症時より左choreaが軽減され四脚歩行器歩行可能となり、膝に手を当てながら約5m自立歩行可能となった(HbA1c6.1%、血糖値125mg/dl).また、自宅の浴槽縁の跨ぎ動作が不安定であった為、プール内で跨ぎ動作の練習を行なったところ、退院時(理学療法開始約4ヶ月)の入浴動作はシャワーチェアー使用にて自立、屋内での移動は四脚歩行器にて可能となった(HbA1c5.8%、血糖値103mg/dl).
【考察】
本症例の左choreaは無意識時に出現し、意識下では軽減され自己コントロール可能であった.また、体動時や急いだ時に著明となり、リラックスすると軽減することから、無意識時の精神状態が左choreaの増悪に影響していることが考えられた.平地での歩行・跨ぎ動作練習では、転倒に対する不安・恐怖心がみられ、バランスがより不安定になっていた.温泉プールエクササイズで左choreaが軽減した要因として、協調性運動の促進・代謝亢進・温熱によるリラクセーション・転倒リスクに対する精神的ストレスの緩和効果が本症例に好影響を与えたと考えられる.今後の課題として、プール外でのストレス下でも同じパフォーマンスが発揮できるよう段階付けが必要であると思われる.

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© 2009 日本理学療法士協会
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