理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-542
会議情報

内部障害系理学療法
寝たきりの糖尿病患者に対する他動的な端座位保持が血糖値へ及ぼす影響
―筋組織酸素動態・呼吸数との関係から―
石井 秀明西田 裕介
著者情報
キーワード: 他動運動, 糖尿病, 血糖値
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】糖尿病に対する運動療法は、他動的な運動では血糖値の低下が少ないと言われているため、随意収縮を行える患者が主な対象となる.特に、歩行可能な患者が対象となることがほとんどである.そのため、随意収縮を行えない、寝たきり糖尿病患者に対する運動療法の報告が少ない.そこで今回、寝たきり糖尿病患者に対する他動的な端座位保持により血糖値の低下を来たした1症例を報告する.

【症例紹介】症例は、特別養護老人ホームに入所している寝たきりの80歳代女性で、糖尿病を有する1例である.身長145cm、体重34.9kg、BMI16.6である.介護度は要介護5、糖尿病はH19年に発症し、主な基礎疾患は、H4年甲状腺機能低下症、高脂血症、H12年虚血性心疾患、H18年心房細動である.食事形態はゼリー食、摂取カロリーは800kcal/日である.運動療法は、H20年8月15日から開始し、10月16日まで継続した.血糖値の測定を行うにあたり、家族には事前に目的と方法を文書及び口頭で十分に説明の後、同意を得た.

【方法】理学療法プログラムは、背臥位で体幹のローテーション及び肩甲骨のモビライゼーションを実施後、両足底部を全面接地させた端座位をとった.端座位の時間は、バイタルサインを確認しながら、3分から徐々に延長させ、18分まで延長した.血糖値の測定は、本施設の看護師にて運動療法の開始前と開始後に週2回実施した.筋組織酸素動態は、近赤外線分光装置(オメガモニター、BOM-L1 TRW)を使用し、15分間の端座位時に右側の下腿後面の最大膨隆部より脱酸素化ヘモグロビン(Deoxy-Hb)を算出した.統計学的検討は、SPSSを用いてShapiro-Wilk検定にて正規性を確認した後、血糖値の運動療法前・後の比較に対応のあるt検定、運動療法前・中・後の呼吸数の比較にWilcoxonの符号付順位検定を行い、有意水準を危険率5%未満とした.

【結果および考察】運動療法開始前・後の血糖値の平均値は、297.13±33.15mmol/dl、265.47±47.23mmol/dlであり、運動療法により有意な減少を認めた(p<0.05).また、運動療法前・中・後の呼吸数の中央値は16回/分、19回/分、17回/分であり、運動療法中に有意な上昇を認めた(p<0.05).Deoxy-Hbは、座位開始前(5.91×104個/mm3)から時間が経過するにつれ上昇し、15分時には7.38×104個/mm3まで上昇した.以上の結果より、本症例に対する他動的な端座位保持は、酸素供給を増加させ、呼吸数を増やし、酸素の取り込みを多くさせる効果があると考えられる.その結果、他動的な端座位保持は、糖の取り込みを促進させ、血糖値を低下させると考えられる.

著者関連情報
© 2009 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top