抄録
【目的】
血液透析(以下HD)患者の透析後の訴えに倦怠感や体のふらつき感がある.そこで今回、立ち上がり動作に着目し、HD患者の透析前後での足底感覚・重心動揺・筋力・血圧・立ち上がり時の前方重心移動距離の関連について検討したので報告する.
【対象】
当院に外来通院されるHD患者12名を対象とした.平均年齢は55.7±7.2歳、平均透析歴は20.9±8.1年であった.なお、筋力測定時、立ち上がり時のいずれかに疼痛を有する場合は対象から除外した.全ての対象者に本研究の目的と方法を説明し同意を得た.
【方法】
筋力測定には、アニマ社製等尺性筋力測定装置μTas-F1を用い、最大等尺性膝伸展筋力を測定した.約5 秒間の等尺性運動を左右各2回実施し、それぞれの最大値の平均値を膝伸展筋力(以下Quad)として採用した.重心動揺・立ち上がり時の前方重心移動距離は、Medicapteurs社製足圧分布測定器・重心動揺形win podを用いた.重心動揺は、30秒開眼にて行い総軌跡長を測定した.立ち上がりは、40cmの台からとし普段行っている動作を誘導した.前方重心移動距離は、移動距離を足長で除した移動率(%)として採用した.足底感覚検査は、酒井医療株式会社製SW知覚テスターを用いた.測定部位は、第1趾裏、第1趾基部、第5趾基部、踵部の4ヵ所をランダムに測定し、2.82~4.08間は3回刺激し、4.17~6.65間は1回刺激し知覚可能な触圧覚閾値を調べた.血圧測定は、コーリンメディカルテクノロジー社製自動血圧計を用いた.統計学的分析では、透析前後でのそれぞれの項目に対し対応のあるt検定を用いた.さらに、膝伸展筋力と重心動揺及び立ち上がり時の前方重心移動距離の関係ついては、ピアソンの相関係数を用いた.有意水準は5%とした.
【結果】
収縮期血圧で有意な低下が認められた(透析前:137.0±30.3mmHg、透析後:120.3±31.8mmHg、p<0.05).拡張期血圧で有意な低下が認められた(透析前:80.6±17.9mmHg、透析後:70.6±17.7mmHg、p<0.05).その他の項目では透析前後で有意差は認められなかった.透析前にてQuadと総軌跡長で正の相関(p<0.05、r=0.58)、Quadと前方重心移動距離で正の相関(p<0.05、r=0.60)、総軌跡長と前方重心移動距離で正の相関(p<0.05、r=0.78)が認められた.透析後はQuadと総軌跡長及び前方重心移動距離に相関は認められなかった.
【考察】
透析を行うことで、下肢筋力・重心動揺・前方重心移動距離・足底感覚に影響を及ぼし倦怠感や体のふらつき感を生じさせ立ち上がり動作に影響を与えているのでないかと予測していたが、今回の結果からHD患者では下肢筋力ではなく血圧低下を示す自律神経系の関与が影響していると考えられた.