抄録
【はじめに】ベゲタミンの大量服用で横紋筋融解症を呈した統合失調症症例の大腿四頭筋麻痺の1例を経験した.リハビリテーション(以下リハ)の経過につき報告する.今回の報告はヘルシンキ宣言に従い症例に説明をして了承を得た.【症例】31歳、女性.既往歴:統合失調症、糖尿病.【現病歴】2007年6月中旬にベゲタミンを大量服用し意識障害が出現.某大学病院救命センターに搬送され血液浄化療法を受ける.発症10日目からリハが開始され、7月12日に退院となった.7月13日に当院を受診しリハ開始となった.【初期評価】徒手筋力テスト(MMT)の結果:両股関節屈曲4および外転が4であった.両膝関節伸展が0、屈曲が4であった.両足関節伸展が4、屈曲が4であった. ADL能力:Barthel index 55点、起居動作は手すりつき椅子自立、歩行能力はロフストランド杖使用で屋内監視、屋外歩行は軽介助であった.【経過】2007年7月17日から筋力およびADL訓練を開始した.8月11日に歩行が自立、階段昇降も監視で可能となった.9月1日には大腿四頭筋に筋収縮が感じられMMTが1となった.9月14日に階段の上りが自立した.9月21日には階段の下りが自立した.11月6日に膝関節伸展が2となった.1月28日には膝関節伸展が3となった.4月22日には膝伸展筋力が4であった.春先になると思考がまとまらないなど統合失調症の症状が増悪、および筋力訓練が辛いとなどの理由で通院頻度が減少した.そのため運動プログラムを一時中止、ストレッチや温熱療法などに変更することで、通院中止による社会参加の機会が減少するのを防止した.その後、活動面は徐々に増加し10月中旬より授産施設に復帰が可能となった.【考察】統合失調症を合併する横紋筋融解症の経過報告は我々のみた限りで少ない.類似した事例として阪神大震災時のクラッシュ症候群の報告がある.それによると16週以降でも歩行に至らなかった症例が10例中3例と筋力回復には長期要すると予想された.統合失調症へのリハが社会適応を目的としている事も考慮し、筋力回復主体ではなくclose packed position(CPP)で骨靭帯性の支持力を利用した歩行をさせることで、早期に歩行を自立させ早期社会復帰に向けモチベーションを維持させた.筋力が十分でない場合Closed kinetic chainでは靭帯、軟部組織に対し負担を増加させる.そのためOpen kinetic chainから開始するのが良いといわれている.本症例でもADL自立度が改善する一方で、膝関節に力学的負担が増加し膝関節痛が出現し筋力改善がプログラムを中断してしまった.統合失調症は自己管理能力が必要以上に乏しく肥満、関節負担の軽減が困難である.歩行動作を優先しプログラムが中断した点は反省すべき点であった.筋力訓練の停滞はあったが、一旦獲得した機能が著しく低下することがなかった.通院による身体活動および社会への参加の増加が身体機能維持につながったためと考えられた.