抄録
【目的】
血液疾患患者の身体障害やADL障害に関する理学療法領域での報告は散見する程度である.そこで、我々は血液疾患患者で、理学療法の処方を受けた患者に対して理学的所見・ADL・血液データから障害像を考察した.
【方法】
対象は2008年3月から2008年10月までに、理学療法を目的として処方された血液疾患患者で本研究に同意した23名(男性14名・女性9名:平均年齢63.1±16.5歳)である.原疾患は急性骨髄性白血病4名・急性リンパ性白血病2名・成人T細胞性白血病4名・ホジキン病2名・非ホジキンリンパ腫7名・多発性骨髄腫4名である.理学療法の主たる処方内容は、筋力増強訓練および歩行訓練であった.評価項目は、入院時の体重、評価時の体重、治療薬の種類、FRT、6分間歩行、握力、Barthel Index、Hb量、TP量、その他一般・生化学血液データである.解析は、基礎統計量、相関分析、t検定を用いて、有意水準を5%未満とした.なお、今回用いた統計学的パラメータのうち、体重変化率は、(評価時体重-入院時体重)/入院時体重*100で求めた.
【結果】
1.年齢(平均値63.1歳)とFRT(平均値22.1cm)の相関は、r=-0.6で有意な負の相関を認めた.FRTとBI(平均値86.5点)・6分間歩行(平均値257.4m)・Hb量(平均値9.6g/dl)のそれぞれの相関は、r=0.5・r=0.7・r=0.4と有意な正の相関を認めた.Hb量と入院から測定実施までの期間(114.4日)の相関は、r=-0.5と有意な負の相関を認めた.体重変化率(平均値-6.3%)は、各要因と無相関であった.
2.握力(平均値20.0kgf)に性差はなく、日本人の標準値と比較して、各年代の下限値より大幅に低かった.
3.ADLにおける要介助者率は、入浴47.8%、階段昇降43.5%、歩行30.4%、更衣・トイレ26.1%、移乗21.7%で、それ以外の動作は0%であった.
4.治療薬剤に関しては、IDA併用Ara-c療法2名、R-CHOP療法6名、ABVD療法2名、その他、抗がん剤治療や免疫抑制剤が処方されていた.
【考察】
FRTは身体機能をよく反映しているが、年齢との相関が高く疾患特異度は低いと考えられた .握力は女性より男性の低下率が高く、また、ADL障害の要介護率から半数近くの者が、全身的な筋力低下を有すると推測された.体重変化率の主たる要因は、抗がん剤治療薬等の共通の副作用として嘔吐・嘔気などによる食欲不振と思われるが、副作用に関する定量的測定をしていないため、今後の課題である.
今回の測定で、ADL障害が主に下肢筋群を使用する動作に集中していることを考えると、筋力評価は握力でなく下肢筋にすべきであった.また、Hb量は疾患特性から、慢性的に低値な場合や薬物の副作用で低値となる可能性があり、少なくとも薬物療法前後の血液検査データの動態を把握すべきであった.
寛解療法や地固め療法による患者のdeconditioningは軽視されがちであるが、今回の研究からも、ADL障害を被る前に、予防的・治療的な理学療法の積極的な介入が必要と考えられた.