抄録
【背景・目的】近年、高齢心疾患患者や他疾患有病者に加えて、再心臓手術患者など入院期心大血管リハビリテーション(心リハ)に難渋する患者も増加傾向にある.また、我々は再心臓手術が術後心不全再入院の危険因子であることを報告しており、再手術患者の入院期心リハプログラム再検討の必要性を示した.そこで本研究では弁置換術を施行した患者を対象に、初回弁置換術患者と再弁置換術患者において入院期心リハの進行状況に差異を認めるかを検討した.
【方法】2006年1月から2008年10月にかけて弁置換術の適応となり、本研究の趣旨を説明し同意の得られた患者365例(平均年齢64±13歳、男205例/女160例)について、初回の弁置換術患者342例(初回群、64±14歳、男193例/女149例)と前回の弁置換術から5年以上経過している再置換術患者23例(再置換群、63±13歳、男12例/女11例、初回から再置換術までの期間16±9年)の2群に分けて比較検討した.さらに初回群を初回大動脈弁置換術群と初回僧帽弁置換術群に、再置換群を大動脈再置換群と僧帽弁再置換術群に分類した.なお、感染による手術適応例、冠動脈再建術との複合手術症例、維持血液透析を必要とする慢性腎不全症例、歩行障害を伴う脳血管疾患合併症例は除外した.入院日、手術日、抜管日、ICU退出日、心リハ開始日、病棟歩行(連続200m歩行)自立日、退院日を調査し、各期間を日数にしてそれぞれ初回群と再置換群で比較検討した.さらに、術後ADL再獲得の指標として病棟歩行自立完遂の有無を調査した.
【結果】手術から心リハ開始日までの期間は2群間では有意差を認めなかった.ICU滞在日数、心リハ開始から病棟歩行自立までの期間、手術から退院までの期間において、再置換群が初回群に比べて有意に高値を示した(それぞれP<0.05).ADL再獲得率は初回群83%、再置換術83%と両群に有意な差を認めなかった.さらに大動脈弁と僧帽弁それぞれの初回群と再置換群を比較検討すると、大動脈弁置換術症例においては初回群と再置換術群で入院期心リハの進行に同様の有意差が認められたのに対し、僧帽弁置換術症例では初回群と再置換術群の間で有意な差は認めなかった.
【考察】本研究では大動脈弁再置換術患者で、入院期の心リハ進行は遅延するものの、ADL再獲得率は同等であることが示された.一方、大動脈弁再置換術患者では、ICU滞在日数が長期化しており、初回群に比べて周術期管理に難渋する症例が多い可能性が示された.しかし、心リハ開始までの期間は同等であることから大動脈弁再置換術患者に対する術後早期のリハビリは慎重に進める必要性が示唆された.