抄録
【目的】有酸素運動による動脈硬化の予防・改善効果が報告されている.理学療法の対象者には動脈硬化やメタボリックシンドロームを合併している対象者が多いが,全身状態の問題などにより有酸素運動を積極的に実施しにくい対象者が多いのが現状である.近年,全身振動運動(以下WBV-t)が即時的に動脈の弾性に影響を与える事を示唆した報告が散見される.WBV-tは疲労度が少なく、継続しやすくこれらの対象者にも適応できる可能性が考えられる.しかし,WBV-tが動脈に与える影響を,血圧に依存しない新しい動脈硬化指数(Cardio Ankle Vascular Index: 以下CAVIと略す)で評価した報告はない.そこで本研究は健常人に対して3種類の治療時間でWBV-tを実施し,CAVIに与える即時的,経時的影響を比較検討した.
【方法】対象は51名の健常若年者であり,ランダムに3群(1分群・5分群・10分群)に割り付けた.WBV-tは,Galileo 900 (Novotic Medical社製)を使用し,周波数26Hz・足幅22cmで実施条件を統一,対象者の肢位を膝関節軽度屈曲位,上肢下垂位とした.評価項目はCAVI,血圧,心拍数とし,各項目をWBV-t前後及びWBV-t終了後10分ごとに3回測定した.またWBV-t終了後にアンケート形式で内省報告をとった. CAVI測定機器はVaSera VS-1000(フクダ電子社製)を使用した.測定は9月下旬から10月中旬で,午後12時から19時の間で行った.各評価時期における各項目の平均値の3群間比較を,Kruskal-Wallisの検定を用い,多重比較にはTukey-KramerのHSD検定を用いた. 3群間の経時的変化の違いを繰り返しのある二元配置分散分析を用いて検討した. 統計解析はJMP(SAS Institute Inc. 日本語版 ver6.0.3)を用い,有意水準は5%未満とした.
【結果】二元配置分散分析における交互作用(時間×実施時間)(p=0.11)、主効果(実施時間)(p=0.06)は左右のCAVIにおいて認められなかった.ベースラインには差がなかったが,WBV-t実施直後で1分群に比べて,5分群で左右のCAVIが有意に低下していた(p=0.01).またWBV-t実施20分後においては,1分群に比べて,5分群・10分群で左右のCAVIが有意に低下していた(p=0.01). また,内省報告では10分間の実施は苦痛を伴うとの報告が多かった.
【考察】5分群でCAVI値が有意に低下したが, WBV-tによる血流量増大と交感神経活動増加が影響したと考えられる.交感神経優位になることで血管が収縮しCAVIが上昇するとされているが,血流量増大により,血管内皮から産生された一酸化窒素(以下NO)が交感神経活動を抑制し,さらにCAVIを低下させたと考えた.10分実施群で,WBV-t終了20分後にCAVI値が有意に低下したが,安静臥位による交感神経活動抑制のためと考えた.しかし,10分の実施は苦痛によって実用ではないと考察した.
【まとめ】健常若年者に対しCAVIを用いてWBV-tの動脈弾性に対する影響を検討した結果,5分実施群で最もCAVIが有意に低下していた.