抄録
【目的】近年、透析技術の発達に伴い、長期期間の血液透析(HD)患者が増え、QOLの維持向上が重要視されている.そのためには、リハビリテーションの立場から活動範囲の拡大が必要であると考えられるが、長期的にHDを継続している患者は合併症の出現により、日常生活上の活動範囲(活動範囲)が制限されることが多く見受けられる.運動機能の低下が身体活動量の低下を引き起こすことは報告されており、このことが活動範囲を制限すると考えられるが、長期的なHDの継続に伴う臨床的所見および既往歴・合併症が活動範囲に及ぼす影響を明らかにした報告は数少ない.そこで本研究では、HD患者における活動範囲と臨床的所見および既往歴・合併症との関連性を明らかにすることを目的とした.
【対象および方法】2008年7月から8月の期間に、当院にてHDを行っていた患者のうち、屋外歩行が可能な59例(男性37例、女性22例)を対象とした.調査項目は、臨床的患者背景因子から、年齢、透析期間、Body Mass Index(BMI)、心胸比、過去1年間における入院回数、血液検査所見から、血清アルブミン値、血清ヘマトクリット値、血清クレアチニン値(Cr値)、既往歴・合併症から、脳血管障害、下肢変形性関節症、脊椎障害、骨折とし、診療記録から後方視的に調査を行った.また、活動範囲に関する調査には、障害老人の日常生活自立度を用い、聞き取り調査にてJ1(交通機関等を利用して外出する)とJ2(隣近所へなら外出する)に分類し、J1を活動範囲の制限なし、J2を活動範囲の制限ありとした.統計学的検定には、活動範囲の制限の有無を目的変数、上記調査項目を説明変数とした多変量解析を、ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を用いて行い、有意水準は危険率5%未満とした.なお、本研究は当院の倫理規定に従い、データから個人を特定できないように考慮した.
【結果】対象の平均年齢は66.5±11.7歳、BMIは20.6±2.7kg/m2、透析期間は7.8±6.6年で、活動範囲が制限されている者は32例であった.多変量解析において、活動範囲を制限する危険因子には、Cr値(オッズ比=0.58、p=0.02)、BMI(オッズ比=0.73、p=0.02)、年齢(オッズ比=1.12、p=0.01)の3因子が抽出された.
【考察】我々の結果から、HD患者では、Cr値、BMIが低下している者、年齢が高い者ほど、活動範囲が制限されるリスクが高いことが示唆された.Cr値は骨格筋肉量を、BMIは体格的特性や栄養状態をそれぞれ示す指標であると報告されており、活動範囲の制限には、加齢以外に骨格筋肉量や栄養状態の低下が影響を及ぼしていると考えられた.これらのことから、リハビリテーションを施行する際には、加齢を加味し、栄養状態を把握した上で、骨格筋肉量の改善を目的としたアプローチが必要であると考えられた.