抄録
【目的】心臓血管外科術後のリハビリテーション(以下:リハ)は、早期抜管、早期歩行など離床を促進することが推奨されている.当院でも、早期離床を目標とし、心臓血管外科術前後に呼吸リハ、早期歩行練習を実施しているが、早期退院とならない症例も経験する.本研究では、在院日数、術後在院日数に影響する関連要因を明らかにすることを目的とした.
【対象】2005.4~2008.3までに当院で施行された冠動脈バイパス術60例(男性45例、女性15例 平均年齢67.5±8.0歳)、弁置換術68例(男性34例、女性34例 平均年齢65.5±12.5歳)を対象とした.術後の主要合併症の生じた症例は除外し、術前後とも自立歩行が可能な症例のみで検討した.
【方法】本研究の倫理面的配慮は、リハ開始時に匿名性に配慮した上でデータを記録することを説明し、了解を得た.測定項目は、術式別に年齢、BMI、NYHA、EF、在院日数、術後在院日数、ICU期間、歩行自立(病棟内歩行が自立するまで)、リハ期間、手術時間、輸液量、出血量をSpearmanの相関分析を用いて検討した.統計ソフトはSPSSver.12.0を用い、有意水準を1%とした.
【結果】冠動脈バイパス術の各指標の相関係数は、在院日数とEF(r=-0.4)、術後在院日数(r=0.6)、リハ期間(r=0.4)、歩行自立(r=0.3)であった.歩行自立とICU期間 (r=0.4)、リハ期間 (r=0.4)、年齢と出血量(r=-0.3)、手術時間と輸液量(r=0.5)であった.弁置換術の各指標の相関係数は、在院日数と術後在院日数(r=0.7)、リハ期間(r=0.4)、歩行自立(r=0.3)、出血量(r=0.3)であった.ICU期間と術後在院日数 (r=0.3)、歩行自立(r=0.5)であった.リハ期間と歩行自立(r=0.4)、手術時間(r=0.4)、出血量(r=0.4)であった.年齢と歩行自立(r=0.3)、手術時間と輸液量(r=0.4)、出血量(r=0.3)であった(p<0.01).
【考察】冠動脈バイパス術、弁置換術ともに、在院日数と術後在院日数、ICU期間、リハ期間、歩行自立と正の相関があり、ICU期間が延長すれば、歩行自立、リハ期間とも延長し、術後在院日数、在院日数に影響することが明らかとなった.当院ではICU期間が長期化しても、ベッド上での呼吸リハ、四肢自動運動が中心となり、離床は開始していないため、歩行自立、リハ期間に影響していると考える.今後はICU期間が長期化した症例にも、循環動態が安定していれば、離床を開始できるようなプログラムの見直しも必要と思われる.弁置換術では、術中所見に関係する手術時間、輸液量、出血量に、さらにリハ期間にも正の相関があった.また、年齢と歩行自立にも正の相関があった.このことから高齢者で、手術時間が長く、輸液量、出血量の多い症例は歩行自立獲得の遅延、リハ期間の延長、在院日数、術後在院日数が長期化することが予測されるため、頻回な関わりを持ち、確実に離床を進めることが必要である.