抄録
【目的】一般にレジスタンストレーニングは、筋力や筋持久力の強化を目的に行われるだけでなく、骨格筋量の増加による基礎代謝や除脂肪体重などの体組成の改善、糖代謝や血清脂質、自己効力感やQOLの改善などを目的に行われる.しかし、心疾患患者に対するレジスタンストレーニングの検証は少なく、特に本邦における心疾患患者のレジスタンストレーニングの効果の検証はほとんどない.そこで、本研究では、虚血性心疾患患者に対するレジスタンストレーニングの効果についての詳細を検討した.
【方法】対象は虚血性心疾患患者25例(狭心症患者10例、心筋梗塞患者15例).対象者全員に運動療法開始後5週経過した時点からウエイトスタック式のレジスタンストレーニングマシーンを用いて、ややきついと感じる(RPE12~13程度)強度のレジスタンストレーニング(1種目につき10回2~3セット)を実施した.種目は、下肢はレッグプレス、レッグエクステンション、上肢はチェストプレス、ラットプルダウン、体幹はアブドミナル、ローワーバックから開始し、1ヵ月ごとに2つの運動種目を追加し、最終的には12種類のレジスタンストレーニングを行った.運動負荷量の調整は理学療法士の指導のもとに行い、運動療法開始時、3ヵ月後、5ヵ月後(リハビリテーション終了時)にそれぞれ心肺運動負荷試験、最大膝伸展筋力、握力、Functional reach test(FRT)、重心動揺距離、体組成(体重、除脂肪量、骨格筋量、体脂肪率、腹囲)を測定した.尚、対象者には事前に本研究について十分説明をし、同意を得たうえで行った.
【結果】運動療法開始時と5ヵ月後を比較すると、peak V(dot)O2、AT-V(dot)O2、V(dot)E vs. V(dot)CO2 slope、重心動揺距離、最大膝伸展筋力などに有意な改善を認めた.特にpeak V(dot)O2、最大膝伸展筋力は、運動療法開始時と3ヵ月後、5ヵ月後と経時的に有意な改善を認めた.一方、除脂肪量、骨格筋量、体脂肪率、腹囲は運動療法開始時から5ヵ月後まで改善を認めなかった.運動療法開始時からリハビリテーション終了時にかけての最大膝伸展筋力の変化率は、peak V(dot)O2、AT-V(dot)O2、FRT、握力の変化率と正の相関が認められた.なお、レジスタンストレーニングによる筋骨格系の損傷や異常、および心事故の発生は認めなかった.
【考察】今回実施した運動療法では、筋力や全身持久力などを改善させたが、運動療法開始5週間後に追加した、ややきついと感じる(RPE12~13)程度のレジスタンストレーニングでは、事故は認めなかったものの、骨格筋量や除脂肪量などの体組成を改善させる効果は認められなかった.虚血性心疾患患者に対するレジスタンストレーニングは心事故に注意しながらも、その目的を十分に達成させるためには運動強度を再考する必要があることが示唆された.