抄録
【目的】
当院血管外科において,腹部大動脈瘤(以下AAA)に対する介入時期にばらつきがあり,離床開始が遅延する面を認めた.そこで術前から介入し,術後の離床を円滑に進める取り組みを始め,一応の成果を得たので報告する.
【方法】
2007年4月から2008年9月の期間に,当院血管外科にてAAAに対して切除再建術を待機的に施行した73例(男性57例,女性16例,平均年齢74±7歳)を対象とし,術前非介入群(以下A群;男性31例,女性5例)と介入群(以下B群;男性26例,女性11例)の2群に分け,以下の項目について検討した.調査項目は,年齢,性別,術後在院日数,手術からリハビリ開始日数,人工呼吸器装着時間,抜管後酸素投与時間,術後端座位開始日数,術後歩行開始日数,術後歩行自立獲得日数とした.
次にAAAに関して,術後1日目端座位開始,術後2日目歩行開始と設定しているが,両群ともに開始時期が遅延する症例も認め,その要因について検討した.
診療録より情報を得るにあたり,所属長の承諾を得,個人情報保護に配慮し研究を行った.
【結果】
両群間にて,年齢,性別,人工呼吸器装着時間,抜管後酸素投与時間,術後在院日数(A群13.9±4.9日,B群12.6±4.4日;p=0.057)に有意差は認めなかった.手術からリハビリ開始日数は,A群4.1±2.6日,B群-1.2±3.2日で,B群にて有意に短縮された(p<0.0001).術後端座位開始日数は,A群2.3±1.2日,B群1.7±0.8日,術後歩行開始日数は,A群3.4±2.0日,B群2.0±1.0日で,ともにB群にて有意に短縮された(それぞれp=0.02,p=0.0008).術後歩行自立獲得日数は,A群5.9±3.2日,B群4.4±2.8日で,B群にて有意に短縮された(P=0.02).
次に離床遅延を来した要因について検討した.その結果,血圧低下(p=0.0054,*昇圧剤持続投与を実施),嘔気・嘔吐(p=0.01)の症状を認めた症例において,離床遅延を認めた.発熱,術創部疼痛,低酸素血症,貧血,せん妄,イレウス等の有無と離床遅延に関係は認めなかった.
【考察】
術前より介入し,早期離床の意識づけを行うことで,術後円滑に介入でき,離床開始時期の短縮が図れ,その結果,早期に歩行自立が成されたと考えられる.早期に歩行自立が成されたことで,有意差は認めなかったが,B群にて術後在院日数の短縮傾向がみられた.
血圧低下と嘔気・嘔吐の2症状について離床遅延との関係を認めた.これらは麻酔等の影響が考えられ,チーム内で対策を立てることで,離床遅延を防げ,一層早期離床や術後日数短縮が成されると考えられる.
【まとめ】
術前より介入を行うことで,離床開始時期の短縮が成された.早期離床を妨げる要因として挙げられた血圧低下,嘔気・嘔吐の対策を立てることで,一層早期離床が成されると考えられる.