抄録
【はじめに】自宅で転倒し、腰痛にて入院したが、入院中、疼痛が改善しないまま廃用をきたし、ADLが低下した状態で退院され、当施設利用開始後の理学療法(PT)の実施により、長期に渡ってADLの改善がみられた脳梗塞後遺症の事例を経験したので報告する.
【事例紹介】85歳女性.診断名:脳梗塞後遺症(平成10年)、腰椎圧迫骨折(平成16年).既往症:両変形性膝関節症.認知症、高次脳機能障害はない.家族環境:8人暮らし、主たる介護者は長男妻、ひ孫の子守りで多忙.今回の発表に際して目的を説明し、ご本人の了承を得た.
【当施設再利用までの経過】左片麻痺(Br.stage 上肢IV 手指V 下肢IV)を有すも装具と杖で歩行が可能で、更衣、入浴以外は自立であったが、散歩中の転倒による恐怖心から閉じこもりとなる.平成15年4月より利用開始となるが、自宅での転倒相次ぐもADLは変化なく経過していた.平成19年3月17日、朝、洗面所で転倒し、腰痛強く3月20日に入院となる.
【理学療法初回評価及び経過】平成19年6月18日に退院され、6月20日より当施設利用再開となる.初回評価時、機能的自立度評価法(以下FIM)53点(運動項目は食事のみ6点で他は全て1点、認知項目は35点)、全身性に拘縮が進行.下肢筋力は右側はMMTで2レベル、左側は動きを感じる程度.ADLは全介助で、腰痛にて短時間の椅座位のみ可能.入院中は腰痛にてPT実施は数回のみであったようだが「トイレに一人で行きたい」との強い希望を持たれていた.PTは、利用再開時よりあった皮膚湿疹が疥癬と診断された利用中断期間を挟んで週3回の当施設利用時に実施した.
【結果】平成20年9月4日時点で、FIM66点(運動項目は31点、認知項目は35点)、動作能力は、寝返り~起き上がりは見守り~自立、トランスファーは介助~見守り、車イス自操は見守り、歩行はウォーカーケインにて介助、ご本人の希望のトイレでの排泄は介助で、自宅での実施に向け練習中である.
【考察】本事例のADLの改善が図れた要因としては、第1に、改善意欲を高い状態に保て、積極的に長期間のPTが実施できたことが挙げられる.今回は、一つの動作獲得に何ヶ月も要し、意欲の持続のサポートが必須となった.本事例では自分の身体の良い変化は些細な事でも毎日のように感じて頂き、それを共有・確認したことが有効であったと考える.第2に、廃用を来たすまでの経緯がわかる情報が得られたことが挙げられる.本事例は、当施設の記録、ケアマネ、医療機関、更にはご本人からも情報が得られ、それを基に重篤な疾患による廃用ではないためADLの改善の可能性は高いと予測し、退院直後からPTが実施できたことが効果的であったと考える.通所リハの役割として、利用者の十分な情報把握に努め、適切なリハサービスを迅速に提供することが大切であると考える.