抄録
【目的】
近年、高齢化に伴い転倒事故が増加傾向にある.外来診療所においても例外ではなく転倒経験を持つ高齢者は少なくない.転倒事故は運動機能、精神面にも2次的な影響を及ぼすことがあり、転倒リスクの把握は転倒事故を防止する一因になると考えられる.今回我々は、高齢者に対して身体機能テストを行い身体機能と転倒との関連について検討したので報告する.
【対象および方法】
対象は本研究の主旨を説明し、同意を得た当院に外来受診する高齢者46名(男性9名、女性37名、平均年齢78.3±5.1歳)である.測定項目は開眼片脚起立時間、8foot walk、5chair stand、full tandemとした.アンケートによる調査ではSF8を行った.転倒経験による各項目の比較は t検定を用い、full tandemは11秒を境に2群に分け、転倒経験とのχ2検定を行った.またそれぞれのテストを組み合わせて転倒との関連を検討した.
【結果】
転倒有無に対して、開眼片脚起立時間、8foot walk、5chair stand、 SF8による身体的、精神的健康感では有意差を認めなかった.full tandemでは11秒を境にχ2検定で有意差を認めた(p<0.05).機能テストを組み合わせて転倒との関連を検討した結果、感度と特異度が比較的高値を示した片脚起立時間とfull tandemの組み合わせがより高い感度となった.
【考察】
今回の研究結果により、個別の身体機能テストでは転倒との関連が明白ではなかった.各指標はそれぞれ歩く、立つ、動的および静的バランスの指標といえ、外来患者は地域での生活のため比較的身体機能は維持されていたことも考えられる.身体機能テストの組み合わせはその陰性範囲をより狭めることで、機能低下の抽出に適していることが考えられた.
【まとめ】
各身体機能テストを組み合わせて行うことで転倒リスクの把握がより有効であることが考えられた.今後は身体機能面だけでなく複数因子の影響も考慮し、検討していくことが必要である.