理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-224
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生活環境支援系理学療法
視線の方向が静的立位バランスに及ぼす影響
水田 隼鶯 春夫平島 賢一田野 聡黒田 奈良美木村 七恵河野 博史森下 照大松浦 康吉村 昇世
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キーワード: 視線, 重心動揺, バランス
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抄録

【はじめに】
加齢や疾病により立位姿勢や歩行が不安定となる症例を目にすることがあるが,その症例の視線は足部など下方に向けられていることが多い.しかし訓練時にしっかりと前方を注視させると立位や歩行が安定することがある.このため体幹や頚部のアライメントの他にも視線の方向によって立位や歩行時のバランスへの影響があるのではないかと考え,検討を行った.

【対象および方法】
対象は本研究を説明し同意が得られた健常若年者20名(男性8名,女性12名,平均年齢19.0±1.1歳)である.閉脚および歩隔を10cmとした開脚状態にて静止立位をとり,被検者の目の高さと同じ高さおよび同じ距離に設定した目印を60秒間前方注視した状態,被検者の目の高さから45°下方を見るように目の高さと同じ距離の床上に設定した目印を60秒間下方注視した状態の計4パターンの重心動揺をランダムに計測した.なお頚部の前後屈が起こらないように被検者はフィラデルフィアカラーを装着して実験を行った.計測にはアニマ社製重心動揺計グラビコーダGS-3000を使用し,総軌跡長(LNG),単位軌跡長(LNG/TIME),単位面積軌跡長(LNG/E.AREA),外周面積(ENV.AREA),左右方向の動揺平均中心(DEV OF MX),前後方向の動揺平均中心(DEV OF MY)の6項目について計測した.統計処理にはt検定を用い,有意水準は5%以下とした.

【結果】
閉脚状態ではLNGが前方注視では75.49±5.35cm,下方注視では80.66±5.39cm,LNG/TIMEが前方注視では1.25±0.09cm/sec,下方注視では1.34±0.09cm/sec,ENV.AREAが前方注視では3.85±0.65cm2,下方注視では4.65±0.66cm2となり,前方注視に対して下方注視の場合に重心動揺が有意に大きくなった.また開脚状態ではLNG/E.AREAが前方注視では28.22±1.79/cm,下方注視では34.57±3.23/cmと有意な差がみられたが,その他の項目では有意な差は認められなかった.

【考察】
今回の実験では,特に支持基底面積が小さい閉脚状態において下方注視させると立位姿勢が不安定になることが明らかになった.前方注視を行うと壁や柱など水平となる指標に対して自分の身体がどの程度傾斜しているかを視覚的にフィードバックして補正するが,下方注視では傾斜に対して指標となるものが変化するため,視覚的なフィードバックを正確に行うことができず結果的に立位姿勢が不安定になったのではないかと考えられる.これらのことから,バランス訓練や歩行訓練などの際には支持基底面積の拡大や前方注視を促すことによって安定性を向上させることができる可能性が示唆された.今後は高齢者や感覚障害等を有する症例等において検討を加えたい.

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© 2009 日本理学療法士協会
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