抄録
【目的】近年、理学療法士の養成校が急増する中で、当院でも臨床実習生(PTS)を受け入れる機会が増加している.当院のセラピスト数はPT22名、OT15名、ST5名の総勢42名と多く、その中でも臨床経験4年未満が約半数を占め、比較的若いチーム構成となっている.その中で、実際にPTSに対して十分な技術や考え方の指導が出来ているとは言い難い.実習においてPTSの充実度は実習指導者(バイザー)にも反映し、相互作用によって両者のレベルアップが期待できる.今回は長期実習に際し「1日バイザー」を導入することで今後の臨床実習における当院の方向性を検討したので、報告する.
【方法】長期PTSに1名に対し、経験年数を問わず毎日担当のバイザーを決め臨床実習を行う.1日バイザーとPTSは朝礼後、PTSの担当症例に関わる時間以外のタイムスケジュールを立て、実習に臨む.ケースレポートについては従来通り、ケースバイザーとスーパーバイザー(SV)に提出.デイリーノートもSVに提出.
【結果】実習終了後のPTSの意見として「多くのバイザーの意見を聞くことができた」、「1日関わることでなかなか聞きにくかったことも積極的に聞くことができた」、「実習に充実感があった」などが挙がった.またバイザー側の好意見として「PTSとのコミュニケーションがこれまでの実習よりも充実していた」、「時間に余裕があり、自分の考えや、体験して欲しいこと指導したいことが計画的に行えた」、「指導者達が、PTSへの指導方針などを共有でき、実習における環境設定が行いやすかった」などが挙がった.反省点としては「1日だけでなく、3~4日続けて指導したかった」、「何を指導していいか戸惑った」などが挙がった.全バイザーに対し、これまでの実習施設におけるPTSに対する関わりと比べ95%が好印象であった.
【考察】今回の「1日バイザー」導入するに際して、目的として1.PTSが養成校で学んだ成果を臨床の場で存分に発揮できる環境設定、2.受動的な指導から能動的な体験学習、3.バイザー経験の少ないセラピストの指導力向上を挙げた.1.と2.に対しては、上記結果における両者の意見として聞かれており、その結果がPTSの実習期間を通して積極的な姿勢となって現れていた.3.に対しては一人のPTSを通して各バイザー間で共通の認識を図り、指導課題や問題点の検討を行い、指導の方向性を確認することで指導力だけでなく個々のセラピストとしてのレベルアップにも反映されたと考える.また、PTSにより近い立場(臨床経験4年未満)ということで、PTSへの配慮や実習地に早く馴染める環境設定をする場面もみられた.今後の課題として共通認識を持った指導方針や内容の把握、また毎日変わるバイザーとの人間関係形成を苦手とするPTSを受け入れる可能性もあるため、そういった場合の対応を検討していく必要がある.