抄録
【はじめに】
運動習慣は、生活習慣病の予防と治療に有効な手段であり、健康寿命の延伸にも、運動習慣の有無は関与すると報告されている.平成18年の生活習慣病予防キャンペーンでは、「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」となり、運動の重要性が示されている.今回、運動習慣として日常の移動手段に着目し、その違いによる運動機能への影響を検討した.
【対象と方法】
対象は、本研究の主旨に承認を得た、地域のイベントに参加可能な65歳以上の女性29名とした.対象者をアンケート調査により、日常生活時の移動手段で自動車利用者とその他の2群に分けた.これら両群の平衡機能(開眼片脚立位時間、CS-30、重心動揺距離及びTime up and Go Test)と大腿四頭筋筋力について検討した.開眼片脚立位時間は、上限を2分とし、以下のいずれかを満たした時点でバランスが崩れたとして、その時点までの時間を秒単位で測定した.1)支持脚の位置がずれたとき、2)腰に当てた両手もしくは片手が離れたとき、3)支持脚以外の身体の一部が床に触れたときを基準とする.CS-30は、原法に基づき、肘掛のない40cm高の椅子を使用して、開始肢位を両膝関節屈曲100°の座位とし、30秒間における立ち上がり回数を測定した.重心動揺については、アニマ社製 システムグラビコーダG-5500を用い、測定時間30秒間の外周面積、単位軌跡、単位面積、総軌跡長を測定した.統計学的手法は、対応ない2群間の検定、Mann-Whitney検定を用い、有意水準は5%未満とした.
【結果と考察】
対象者は、平均年齢72.2±5.8歳で、日常生活の移動手段で自動車の者は6名、その他の者が23名であった.一週間の平均運動習慣日は日常生活の移動手段で自動車の者・その他の者の順に2.4日・1.8日で有意差を認めなかった.さらに両群間の開眼片脚立位時間、CS-30、外周面積、単位軌跡、総軌跡長、大腿四頭筋筋力も有意差を認めなかった.しかしながら、単位面積では自動車群が有意に大きかった.対象者は、地域のイベントに参加可能なレベルの高齢者であり、日常的な運動習慣に関しては有意な差を認めなかった.したがって、日常の運動習慣による身体機能への影響は、少ないと思われる.その中、重心動揺の単位時間面積に有差を認めたことは、日常での運動以外の身体活動が、身体能力への影響を与えていたと考える.SuzukiによればTraditional Japanese Lifestyleの方がHip Fractureの予防になるであろうと報告されている.毎日の日常生活で繰り返される動作・様式の違いが、身体機能の取り分け平衡機能へ与える影響を示唆すると考える.