理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-577
会議情報

教育・管理系理学療法
義足装着初期の切断者に対する指導方法の検討
―再現可能な形で系統的に記述した指導書の作成―
豊田 輝加藤 宗規高田 治実江口 英範坂本 雄石垣 栄司甲斐 みどり神田 太郎斉藤 弘吉葉 則和中村 信酒井 規宇
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キーワード: 大腿切断, 指導方法, 熟練者
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抄録
【はじめに】我々はこれまでに切断後義足装着初期の切断者に対して,熟練したセラピスト(以下,熟練者)と経験の浅いセラピスト(以下,経験の浅い者)が行っている歩行指導方法の違いを調査してきた.そして,この熟練者たちの指導方法について,健常者を対象とした模擬大腿義足歩行課題において,歩行技能変化や対象者の主観的な側面に関する研究でその有用性を報告してきた.しかしながら,この指導方法を再現可能な形で系統的に示せておらず,経験の浅い者たちが参考にするような資料作成には至っていなかった.経験の浅い者が効果的な指導を提供するためには,系統的に示された方法の存在は有用であると考えられる.
【目的】これまでに健常者の模擬義足歩行課題において,有用性が立証された熟練者たちの指導方法を,再現可能な形で系統的に示した資料を作成する.そして,経験の浅い者がこれに準じて片側大腿切断者に対して指導を行い,その効果について症例ごとに検討することを目的とした.
【方法】これまでの研究で模擬義足歩行課題において,その指導効果が立証された方法を可能な限り再現可能な形で系統的に示す.この指導方法を系統的に示した資料をもとに,担当者である経験の浅い者が片側大腿切断者2症例に対して指導を実施し,その経過報告を示す.また,指導開始後1週間ごとに経験の浅い者の感想を聴取する.なお,研究の主旨について,経験の浅い者および片側大腿切断者に対して説明し同意を得た.
【結果】系統的に示された指導方法に準じて経験の浅い者が指導した結果,指導後1~2週間で片側大腿切断2名ともに,著明な連続歩行距離の延長および10m歩行時間の短縮を認め,良好な経過を得た.また,経験の浅い者から「切断後,義足装着初期の指導手順が明らかとなり,切断者の状態に応じた練習内容の設定が可能になった.漠然と繰り返し歩行させるのではなく,動作を細かく分けて反復練習することの重要性を認識できた.」という意見が聞かれた.
【考察】義足装着初期の段階における義足歩行獲得における主な阻害因子のひとつに,義足歩行動作パターンの経験不足が挙げられる.この義足歩行動作の経験不足とは,障害を有する以前の歩行パターンとは違うため,新たな義足歩行特有の歩行パターンの経験がないことである.つまり,切断者が義足装着して歩行することは,新たな動作学習過程といえる.この時期における動作獲得過程には,膝折れなどの失敗経験ではなく切断者自身が歩行能力向上を実感できる成功体験が重要であると思われる.そのため,系統的に示された資料により,経験の浅い者でも成功体験創出が可能となり,良好な歩行技能の向上が得られたと考える.これらのことから本研究の成果として,熟練者の指導方法を系統的に示したことで,経験の浅い者でも再現可能となり,臨床教育の一助となるものができたと考える.
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© 2009 日本理学療法士協会
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