抄録
【目的】高齢者や有疾患者における骨格筋の超音波画像は健常な筋と比べ高輝度を呈するが,これは骨格筋内の結合組織など非収縮組織の比率の増加といった筋の質の変化を表しているとされている(Heckmatt 1982,Reimers 1996)。近年,筋輝度を用いての定量的評価もなされてきており,小児神経筋疾患の診断における筋輝度測定の有用性や(Pillen 2006),筋生検による脂肪の割合と筋輝度との関連(Pillen 2009)が報告されている。大腿四頭筋の筋力発揮には筋厚や羽状角などの筋の形態的要因が影響するとされているが,筋輝度と筋力との関連についての報告はほとんどない。本研究の目的は,中高齢者における大腿四頭筋の筋厚と筋輝度が膝伸展筋力に及ぼす影響を調べることである。
【方法】歩行が自立している中高齢女性97名(平均年齢74.4±10.2歳,身長148.5±7.8cm,体重49.6±8.5kg)を対象とし,膝伸展筋力,大腿四頭筋筋厚および筋輝度の測定を行った。膝伸展筋力の測定にはHand-held Dynamometer(アニマ社製μ-Tas F-1)を使用し,膝関節屈曲90°位の端坐位にて右側の最大等尺性筋力(N)を測定した。筋力値は2回測定した最大値を使用し,アーム長を乗じた膝伸展トルク(Nm)で表わした。超音波診断装置(GE横河メディカル社製LOGIQ Book XP)を使用し,安静背臥位での右大腿四頭筋の縦断画像を記録した。8MHzのリニアプローブを使用し,ゲインなどの画質条件は同一の設定で測定した。記録部位は,上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結んだ線上遠位1/3から外側3cmで外側広筋(VL)上とし,プローブは皮膚面に対して垂直に保持し,筋肉を圧迫しないように皮膚に軽く接触させた。大腿四頭筋の筋厚として,VLと中間広筋(VI)を合わせた筋厚(cm)を計測した。また画像解析ソフト(Image J)を使用してVLとVIの領域の筋輝度(pixel)を2回ずつ測定し,それぞれ平均値を算出した。さらにVLとVIとの平均値を求め,大腿四頭筋輝度のデータとして用いた。統計学的検定として,ピアソンの相関係数を使用し,筋力値,筋厚,筋輝度および年齢のそれぞれの関連性を検討した。また,筋力値を従属変数,筋厚と筋輝度を独立変数とした重回帰分析を行った。すべての統計の有意水準は,5%未満とした。また本研究での筋輝度測定の信頼性を調べるために,VLおよびVIそれぞれの同一検者による2回の測定値について級内相関係数を求めた。
【説明と同意】すべての対象者には研究内容についての説明を行い,文書での同意を得た。
【結果】筋輝度測定の級内相関係数は,VL,VIともに0.99であった。筋力値は67.5±31.6Nm,筋厚は2.31±0.76cm,筋輝度は80.0±18.4pixelであった。筋厚は筋力値との間に有意な正の相関(r=0.68,p<0.01)を示し,年齢との間に有意な負の相関(r=-0.67,p<0.01)を示した。筋輝度は年齢との間に有意な正の相関(r=0.74,p<0.01)を示し,筋力値との間に有意な負の相関(r=-0.68,p<0.01)を示した。また,筋厚と筋輝度との間にも有意な負の相関が認められた(r=-0.64,p<0.01)。重回帰分析の結果,筋力値に影響を与える有意な因子として筋厚,筋輝度ともに抽出され,標準回帰係数は筋厚が0.41(p<0.01),筋輝度が-0.41(p<0.01)であった。筋力値の重回帰式は,[筋力値(Nm)=83.5+17.3×筋厚(cm)-0.69×筋輝度(pixel),p<0.01]であり,その決定係数は0.56であった。
【考察】級内相関係数で求めた筋輝度測定の信頼性は,VL,VIともに0.99であり,高い信頼性が認められた。本研究の結果より,大腿四頭筋は加齢に伴い筋厚の低下だけでなく高輝度化も呈する,すなわち筋萎縮だけでなく,結合組織の比率の増加といった筋の質の低下も生じていることが明らかとなった。また,中高齢者における膝伸展筋力発揮には大腿四頭筋の筋厚だけでなく筋輝度で表わされる筋の質も影響を及ぼすことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】超音波法を用いた骨格筋の評価については,筋厚や羽状角に関する報告が多いが,中高齢者の筋力発揮に関連する因子として,筋輝度で反映される筋の質についても評価することの重要性が示唆された。超音波法による筋厚や筋輝度の測定は非侵襲的で簡便に実施することが可能であり,臨床で運動処方する際の指標として,今後,応用が期待される。