理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: Se2-032
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専門領域別演題
腹横筋左右繊維別機能分担の超音波学的検討
布施 陽子福井 勉矢崎 高明
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抄録

【目的】我々は従来の研究を参考に、第43回日本理学療法学術大会にて、超音波診断装置による腹横筋厚の測定方法を検討し、十分な信頼性を得た。また、第44回日本理学療法学術大会において、腹横筋エクササイズの観点からストレッチポールの有効性を検証した。腹横筋は後方では胸腰筋膜に付着し腹腔内圧に関与すると言われ、上下肢運動に先行して収縮するなど運動機能に特徴を有する筋である。腹腔内圧が上昇するためには腹腔前面を大きく覆う同筋が体幹左右回旋応力に対する挙動を分析することは意義が大きいと考え、今回上肢課題により腹横筋線維が左右で機能の違いを有するか、検討したので報告する。【方法】対象は健常成人男性11名、女性11名の計22名(29.0±10.0歳)、計測機器は超音波診断装置(日立メディコEUB-8500)を用い、操作に慣れた1名を検者とした。計測肢位は、A:安静背臥位(上肢は肘が床に接した状態で両手を胸の前に位置させ、下肢は股関節0°外転位・膝関節90°屈曲位とした状態)、B:ストレッチポール上背臥位(左肩関節90°外転位・左肘関節伸展位かつ支持なし、右上肢・両側下肢においては安静背臥位と同様、即ち左上肢のみが床から浮いた状態)、 C:ストレッチポール上背臥位(右肩関節90°外転位・右肘関節伸展位の支持なし、左上肢・両側下肢においては安静背臥位と同様、即ち右上肢のみが床から浮いた状態)とし、被験者安静呼気終末の腹部超音波画像を静止画像にて記録した。計測部位は、上前腸骨棘と上後腸骨棘間の上前腸骨棘側1/3点を通る床と平行な直線上で、肋骨下縁と腸骨稜間の中点とした。第43回日本理学療法学術大会で報告した方法を採用し、独自に作製したプローブ固定器を使用して、毎回同じ位置で腹筋層筋膜が最も明瞭で平行線となるまでプローブを押しあてた際の画像を記録した。記録した超音波静止画像上の腹横筋厚は、筋膜の境界線を基準に0.1mm単位で左右それぞれについて計測した。左右腹横筋厚について、それぞれA肢位とB肢位、A肢位とC肢位による腹横筋厚の違いについて、平均値の差(Welch の方法)により有意水準1%で検討した。【説明と同意】本実験にあたり、東京北社会保険病院生命倫理委員会の承諾を得て行った。また、被験者には、腹横筋評価とエクササイズをより詳細に確立する事を目的とすること、実験方法については上記と同様の説明をし、同意書による承諾を得た上で行った。【結果】1.安静背臥位であるA肢位において、左右腹横筋厚の平均値の差については、有意差が認められなかった(p=0.55)。2.同側上肢挙上時にあたる、A肢位左腹横筋厚とB肢位左腹横筋厚の平均値の差、およびA肢位右腹横筋厚とC肢位右腹横筋厚の平均値の差についても、ともに有意差が認められなかった(各々p=0.86, p=0.39)。3.反対側上肢挙上時にあたる、A肢位左腹横筋厚とC肢位左腹横筋厚の平均値の差は統計的に有意差を認めた(p=0.000017)。同様にA肢位右腹横筋厚とB肢位右腹横筋厚の平均値の差についても統計的に有意差を認めた(p=0.000000095)。【考察】結果3より、体幹に回旋負荷を生じさせた場合、回旋方向と同側の腹横筋厚には差を認めず、反対側腹横筋厚が大きくなったことは、腹横筋厚が体幹回旋時に反対側で厚くなるUrquhartらの報告と一致した。腹横筋が体幹に生じた回旋負荷に対して体幹正中化に寄与している可能性を示唆したと考えられる。第44回日本理学療法学術大会で検証したストレッチポールに乗る腹横筋エクササイズの有効性に加え、体幹回旋要素を伴う課題を加えることにより、腹横筋の左右線維を独立部位と考えてエクササイズすることが可能になると考えられる。また、本エクササイズにより運動機能障害を呈する患者だけでなく、片麻痺患者に対しても健側誘導による麻痺側エクササイズとしても有効である可能性が示唆される。上下肢運動に先行して収縮する腹横筋機能が左右上肢の運動に関与する可能性が大きくなったと考えられ、四肢運動と腹横筋機能のさらなる関連性を今後研究していきたい。【理学療法学研究としての意義】腹横筋収縮は超音波画像によりその筋厚を観察する事で可能であると言われてきた。本実験により、支持基底面を制限するストレッチポールの使用により腹横筋収縮が得られるという結果だけでなく、上肢の質量負荷という特別な機器を用いない条件でさらに左右の腹横筋線維を選択的にエクササイズできる可能性を示したことは運動療法の適応を広げたと考えられる。また腹横筋は回旋負荷に対して左右線維で別々の対応をする運動機能についても、検証できたと考えている。

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© 2010 日本理学療法士協会
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