理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: Se2-043
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専門領域別演題
立位姿勢での脊柱回旋変位は動作時の脊柱回旋左右差と関連する
建内 宏重和田 治市橋 則明
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キーワード: 脊柱, 姿勢, 動作解析
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抄録
【目的】
脊柱の回旋ストレスは椎間板や椎間関節、その周囲組織に損傷を与える可能性があるため、腰痛の原因の一つとして重視されており、臨床で脊柱回旋可動域の分析はよく行われている。しかし近年、脊柱回旋の可動域よりもむしろ回旋可動域の左右差が腰痛患者では増大していることが報告されている。脊柱回旋の左右差が増大すると、可動性が大きい側での微細な損傷が繰り返され腰痛につながると考えられている。したがって、脊柱回旋左右差と関連する因子を同定することが左右差を軽減するための治療にとって必要である。我々は、静止立位における脊柱回旋変位が動作時の脊柱回旋角度の左右差と関連すると仮説を立て、その仮説を検証するために本研究を行った。
【方法】
対象は、下肢・脊柱に疾患を有さない健常成人27名(年齢:23.3 ± 2.9歳、身長:173.1 ± 4.5 cm、体重:63.4 ± 5.6 kg)とした。測定課題は、静止立位保持、立位での体幹回旋動作、歩行動作(腕振り有り、無し)の4課題とした。静止立位は、足角10度、足幅は各対象者の足長として標準化し、両踵を空間座標における横軸に沿って貼付したテープに揃えて接地した。上肢は腹部の前で組ませて、安定した10秒間を3回記録した。体幹回旋動作は、上記の静止立位から足部を浮かさずに左右交互に3回ずつ最大に体幹を回旋する動作を測定した。対象者には、後ろを振り向くように最大に体を回旋してくださいと指示し、測定前に数回練習を行った。歩行動作は、自然な歩行速度での歩行を測定した。腕の振りは体幹の回旋モーメントに影響を与えることが知られているため、腕を腹部の前で組ませた腕振り無しの歩行も測定した。各歩行とも練習後に3回ずつ記録した。
測定には、3次元動作解析装置(VICON社製)を用いた。Plug-in-gaitモデル(VICON社製)のマーカーセットに準じて骨盤と胸郭に反射マーカーを貼付し、骨盤に対する胸郭の相対的な回旋変位を脊柱の回旋と定義した。静止立位では10秒間における脊柱回旋変位の平均値を、体幹回旋動作では、回旋動作時の左右の最大脊柱回旋角度を、歩行動作では1歩行周期における左右の最大脊柱回旋角度を算出し、各課題とも3試行の平均値を分析に用いた。
統計学的分析では、まず、静止立位における脊柱回旋変位方向を分析し(一標本t検定)、各対象者の静止立位での脊柱回旋側と反対側とについて、体幹回旋動作および歩行動作における脊柱回旋角度の左右差を分析した(対応のあるt検定)。加えて、静止立位での脊柱回旋変位と、体幹回旋動作および歩行動作での脊柱回旋角度の左右差との相関関係を分析した(Pearsonの相関係数)。
【説明と同意】
倫理委員会の承認を得て、対象者には本研究の主旨を書面及び口頭で説明し、参加への同意を書面で得た。
【結果】
静止立位では、平均値としてはわずかだが有意に非利き手側への脊柱回旋を認めた(1.4 ± 1.6°、p < 0.001)。体幹回旋動作での脊柱回旋角度について、静止立位での脊柱回旋側と反対側とでは有意差を認めなかった。歩行動作でも、静止立位での脊柱回旋側と反対側とでは脊柱回旋角度に有意差は認めなかった。しかし、静止立位における脊柱回旋変位と、体幹回旋動作の左右差(左右差の絶対値;4.3 ± 3.0°)および歩行動作時の脊柱回旋角度の左右差(左右差の絶対値:腕振り有り;2.6 ± 2.3°、腕振り無し;2.6 ± 2.0°)との間にはいずれも有意な相関関係を認めた(体幹回旋動作:r = 0.64, p < 0.001、歩行(腕振り有り):r = 0.40, p < 0.05、歩行(腕振り無し):r = 0.49, p < 0.01)。すなわち、静止立位で脊柱が一側に大きく回旋しているほど、動作時の脊柱回旋左右差も同側に大きくなった。
【考察】
体幹回旋動作は脊柱回旋の最大可動域を測定しており、静止立位でのわずかな回旋変位が脊柱の最大可動域の左右差と関連していることが示された。さらに、歩行動作での脊柱回旋左右差においても同様の相関関係を認めた。歩行で生じる脊柱回旋は最大可動域以下での回旋であり、静止立位での脊柱回旋変位は、脊柱の最大可動域だけでなく左右の相対的な回旋しやすさとも関連していることが推察される。静止立位での脊柱回旋変位が大きい場合、日常で繰り返される動作時の脊柱回旋左右差が増大している可能性が高いため、静止立位の脊柱回旋変位は腰痛の危険因子の一つとして重要であるかもしれない。
【理学療法学研究としての意義】
脊柱回旋角度の左右差について、臨床において動的な場面での測定を行うことは容易ではない。本研究結果により、静止立位時の脊柱回旋変位の測定により、動作時の脊柱回旋左右差の傾向を予測できる可能性が示唆され、臨床における姿勢アライメントの評価にとって有用な研究であると考える。
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© 2010 日本理学療法士協会
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