理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-040
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一般演題(口述)
最大強度かつ持続的な等尺性運動時に観察される中枢性疲労
村松 憲澤田 誠深澤 雄希石黒 友康
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キーワード: F波, 誘発筋電図, 疲労
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抄録

【はじめに】
疲労は筋実質や神経系、呼吸・循環・代謝機能などの様々な要因が関与する複雑な現象であることが知られているが、特定の運動中に生じる疲労がどのような要因によって引き起こされているのかという点については不明な点が多い。そこで本研究では最大強度かつ持続的な等尺性運動によって生じる疲労について筋実質、神経筋接合部、中枢神経それぞれの要素がどの程度疲労の発現について関与しているのか検討したので報告する。

【方法】
本研究はインフォームドコンセントが得られた健康な成人男女計11名(21±0.8歳)を対象に行った。

[使用器具]
Biodex(酒井医療)を用いて右足関節底屈の等尺性運動時の足関節のトルク値(以下、関節トルク)を計測した。また、脛骨神経刺激用の電極を右膝窩部に、記録電極を右ヒラメ筋上に設置し、Neuropack(日本光電)を用いてヒラメ筋の誘発筋電図を記録した。刺激強度は最大M波が観察される2から3倍の刺激強度を用いた(以下、電気刺激)。
[疲労実験]
まず、疲労実験を行う前に被験者には随意的かつ最大強度での足関節底屈運動を行わせ、疲労前の最大のトルク値(以下、最大関節トルク値)と誘発筋電図を記録した際に生じるトルク値を計測した。次に被験者に最大収縮にて足関節底屈をできるだけ長時間行うよう指示し、その間の関節トルク値を記録した。本実験における疲労とは関節トルク値が事前に計測した最大関節トルク値の40%以上を維持できなくなった時点と定義付けた(以下、疲労)。運動開始から疲労が生じるまでの間、ヒラメ筋より表面筋電図を記録しながら、定期的に脛骨神経に電気刺激を与えヒラメ筋の誘発筋電図と電気刺激によって生じたトルク値を計測した。また、疲労現象が観察された時点をトリガーとして誘発筋電図の記録を行い、続いて随意的に最大強度の底屈運動を行わせ疲労後の最大トルク値を計測した。

【説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に従って行われ、健康科学大学実験倫理委員会の承認も得ている。

【結果】
[表面筋電図]
持続的な等尺性収縮の時間に依存してヒラメ筋の筋電図積分波形の振幅は漸増した。運動開始直後の10秒間と運動終了前10秒間の筋電図の積分波形を比較すると疲労時の筋電図の方が運動開始時に比べて高い振幅を示し、その周波成分も運動開始時の平均88.9±27.7 Hzに対して疲労後は48.1±17.5 Hzと優位に低下していた(P<0.01)。

[誘発筋電図]
持続的収縮開始直後および疲労後、随意運動中の最大M波の振幅には変化が観察されなかった。一方、F波は安静時に比べて運動中に僅かに振幅を増し、疲労時には11例中9例の被験者において安静時や運動時(疲労前)に比べて有意に振幅が増加した(P<0.05)。また、振幅F/M比の平均は運動開始直後が1.5±2.7 %であるのに対し疲労後でF/M比が9.7±4.4 %と有意に増加した(P<0.01)。

[関節トルク]
持続的な筋収縮によって関節トルク値は漸減した。しかし、疲労前後に脛骨神経に与えられた電気刺激によって生じた関節トルクは疲労前の平均が19.5±4.1 Nm、疲労直後が18.8±2.7 Nmと殆ど差がなく、随意的に行う最大の底屈運動時の関節トルクに関しても疲労前の平均が156.9±25.5Nm、疲労直後が163.8±33.3 Nmと差がなかった。

【考察】
本研究では被験者に持続的かつ最大強度での足関節底屈等尺性収縮を行わせた結果、足関節の関節トルクは運動時間に依存して減衰し、主動作筋であるヒラメ筋の筋電図は疲労時に特徴的な活動パターンを示した。しかし、疲労前後において随意運動あるいは末梢神経の電気刺激によって発生する関節トルクやM波の振幅に変化が生じなかったことは本実験で観察された疲労が筋実質や神経筋接合部に由来する疲労ではなく、中枢神経由来のものであることを示唆するものである。一方、F波は殆どの被験者において疲労に依存して振幅が増大し、疲労後には振幅F/M比が9.7±4.4 %と高値を示した。振幅F/M比の上昇は中枢神経の異常時に観察される事が多いが、今回観察された振幅F/M比の上昇は中枢神経の疲労に伴う一過性の機能低下を反映したものと考えられる。今後は等尺性運動以外の運動を用いて同様の実験を行い、本研究で観察された中枢性疲労を主体とする疲労現象が他の種類の運動時にも観察されるのか検討する必要がある。

【理学療法学研究としての意義】
本研究では持続的等尺性収縮によって中枢性疲労を主体とする疲労が生じることを強く示唆するものである。今後は本モデルを用いて中枢性疲労のメカニズムについて調査を進め、中枢神経系の機能が低下し中枢性疲労を生じやすいと考えられる脳卒中後の患者等が訴える易疲労性の病態理解に等に役立てることが可能であると考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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