理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-042
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一般演題(口述)
二重課題(Dual task)が筋活動および脳活動に与える影響
土田 和可子中川 慧波之平 晃一郎河原 裕美藤村 昌彦弓削 類
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キーワード: Dual task, 表面筋電図, 脳磁図
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抄録

【目的】近年,二重課題(Dual task:以下,DT)下でのパフォーマンステストが注目されている.DT条件下では,要求される2つの課題を同時に遂行することで,2つの課題への注意を適切に配分しながら,課題を遂行することが要求される.これまでに,歩行安定性の低下,歩行速度の低下,姿勢動揺性の増大など多くの報告がなされている.我々は,第44回日本理学療法士学会において,一側の足関節背屈運動中に計算課題を課した際に,表面筋電図(Electromyography:以下,EMG)上に反対側の前脛骨筋(Tibialis anterior:以下,TA)の筋活動が出現することを報告した.そこで,本研究では,さらに対象者を増やし,再現性を確認するとともに,反対側に筋活動が生じたメカニズムを検討することを目的に,非侵襲性で時間・空間分解能に優れた脳磁図(Magnetoencephalography:以下,MEG)を用いて二重条件下での脳活動を測定した.
【方法】EMGの測定は,筋骨格系障害に既往がない健常大学生36名(男性12,名女性24名)を対象とし,Myosystem1200を使用した.導出筋は,両側のTAとした.測定肢位は,高さ62cmのベッド上で端坐位とし,左膝関節屈曲60°になるように左足台の高さを調節した.その際,右下肢は自然に下垂させ,浮かした状態にした.左足関節背屈(以下,DF)を1秒間に1回行うように指示し,練習時のみメトロノームを使用した.課題は,こちらが指示する数値から2を順序引いていく計算と,7を順序引いていく計算とした.測定条件は,背屈(20秒)-背屈と計算(20秒)-背屈(20秒)のDF-2,DF-7の2条件と,60秒間背屈を行った条件の3条件とした.動作開始から20秒までを1相,20秒から40秒までを2相,40秒から60秒までを3相とした.%MVCを用いて,各条件,各相間で比較検討した.背屈間隔は,変動係数を用いて,ばらつきの度合いを求めた.
MEGの測定は,306ch 全頭型脳磁計Neuromag Systemを使用し,筋電図を測定した対象者のうち 14名(対側の筋活動が出現した群:7名,非出現群:7名)に対して行った.シールドルーム内にて,左足関節背屈と計算のDTを実施した.背屈は,非磁性体からなる自作の装置を使用し,計算と間隔を一致させないように指示した.計算課題は,2秒間隔でスクリーンに呈示される80~99から2を引く計算(以下, Calc2)と,同様に7を引く計算(以下,Calc7)とした.条件は,「Calc2」「Calc7」「DF」「DF-Calc2」「DF-Calc7」の5条件を行った.MEGにて,背屈運動に伴う両側運動準備磁界(Readiness field:以下,RF)および計算に伴う前頭領域の活動を記録し,各条件下で比較した.
【説明と同意】対象者に対し,本研究の目的・方法を十分に説明し,同意を得た.なお研究に先立ち,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得た(No,0916).
【結果】筋活動量は,DF-2条件において1相より2相が有意に大きかった(P<0.05).DF-7条件では,1相より2相,3相ともに有意に大きかった(P<0.05).背屈間隔は,DF-2,DF-7条件ともに,2相においてばらつきが大きくなった(P<0.05).DT条件時に,36例中9名において右TAの筋収縮が認められた.
MEGでは,RFが両側性に出現した.単一課題時に比べDT条件では,右RFは有意に小さくなり(P<0.05),左RFは大きくなった(P<0.05).計算時の脳活動は,前頭領域においてCalc2に比べ,DF-Calc2の活動が有意に小さかった(P<0.05).右TAの活動が出現した群では,DF-Calc2の両側のRFの変化率が大きかった.
【考察】二重課題の際,脳活動は運動準備磁界がより両側性に出現する傾向にあった.また,左TAの筋活動は大きくなり,4人に1人の割合で右TAの活動がみられた.右TAの活動が出現した群では,左右運動準備磁界の変化率が大きかった.これは,二重課題により,意識を計算課題へ向けたことで,背屈への注意が分散されたために,筋活動の調節が適切に行える条件を得られなかったためと考えられる.左右肢間の運動相互作用には,大脳半球を結ぶ交連線維を介在する抑制現象である大脳半球間抑制が関与していると報告されている.二重課題により注意分散され,大脳半球間抑制が減少したことによる左右運動野領域の活動の変化が、対側に筋収縮がおこるメカニズムに関与している可能性が示唆された.
【理学療法学研究としての意義】本研究結果より,二重課題により、左右肢間の運動相互作用が大きくなることが明らかになった.運動に対するアプローチを行う際,課題条件や実施環境に対し考慮する必要があると考えられる.また,一側肢の運動に伴う二重課題を行うことにより対側の運動野領域の活動が大きくなることが分かった.運動学習における交差教育に効果がある可能性が考えられる.今後,脳損傷患者を対象とした研究を行い,これらの関連性について検討していきたい.

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© 2010 日本理学療法士協会
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