理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-043
会議情報

一般演題(口述)
大腿四頭筋における最大等尺性筋力と筋硬度および筋厚との関係
筋硬度は筋力発揮に影響するか?
塚越 累池添 冬芽市橋 則明
著者情報
キーワード: 筋力, 筋硬度, 筋厚
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】
筋硬度は筋の緊張状態の変化を反映し,筋出力の上昇に伴って増加することが先行研究により示されている。しかし,筋硬度を測定するために用いられている圧迫力は報告によって様々であり,どの程度の圧迫力が適当であるかは明らかではない。また,筋硬度と最大筋力との関係については報告が少なく,見解の一致もみられない。そこで本研究では,1.筋出力を評価するうえで適した圧迫力を検討すること,2.大腿四頭筋における最大等尺性筋力と筋硬度および筋厚との関係を明らかにすることを目的とした。

【方法】
健常成人23名(男性15名,女性8名,年齢24.1±3.9歳,身長167.1±7.9cm,体重60.3±7.6kg)を対象とした。筋力測定器(OG技研社製ISOFORCE GT-330)を使用して,膝60度屈曲位における最大等尺性膝伸展筋力(以下,最大筋力)を測定した後,被験者にモニターで直接確認させながら安静時から最大等尺性随意収縮(以下,MVC)時まで20%MVC間隔でランダムに筋出力させた時の大腿直筋(RF)部および外側広筋(VL)部の筋硬度と筋厚を測定した。なお,測定は全て右側とした。筋硬度の測定には筋硬度計(NTI製マイオトノメーター)を使用し,各筋を0.25kgから2.0kgまで0.25kg間隔の圧迫力で押したときにプローブが貫入した筋移動距離(筋硬度)を測定し,それぞれの圧迫力について2回測定した値の平均値をデータとして採用した。筋厚は超音波診断装置(東芝メディカルシステムズ社製famio cube)を使用し,RF部はRFと中間広筋,VL部はVLと中間広筋を合わせた筋厚を測定した。最大筋出力に伴う筋硬度と筋厚の変化を明らかにするために,安静時に対するMVC時の筋移動距離および筋厚の変化率を算出した。統計的検定として,1.反復測定分散分析と多重比較を使用して,各圧迫力における筋出力の上昇に伴う筋移動距離の変化を検討した。2.筋硬度変化率と筋厚変化率におけるRF部とVL部との違いをウィルコクソン符号付順位和検定により比較した。3.最大筋力と筋移動距離および筋厚との相関係数を求め,最大筋力との関連性を調べた。さらに,4.最大筋力を従属変数,安静時とMVC時の筋移動距離および安静時筋厚を独立変数とした重回帰分析を行った。なお,筋硬度変化率,相関分析および重回帰分析には2kg圧迫時の筋移動距離を用いた。有意水準は5%未満とした。

【説明と同意】
対象者には研究内容を十分に説明し,文書にて研究参加の同意を得た。

【結果】
反復測定分散分析と多重比較の結果,各筋出力時の筋移動距離は,RF部は2.0kg圧迫時,VL部は1.75kgと2.0kg圧迫時のみ安静時からMVC時の全水準間に有意差を認め,筋出力に伴って筋硬度が増加することが示された。また,RF部では0.25~1.75kg,VL部では0.25kg~1.5kgの圧迫時に40%MVC以上の筋出力間で有意な差を示さない検定項目を認め,圧迫力が弱いほど有意差を示さない項目が多かった。安静時に対する収縮時の筋硬度変化率はRF部-58.3%,VL部-56.8%であり,RF部とVL部の筋硬度変化率には有意な差は無かった。一方で,筋厚の変化率はRF部6.8%,VL部-0.9%であり,筋厚変化率はRF部のほうがVL部に比べ有意に高かった。最大筋力と筋硬度との関連については,安静時筋移動距離との間には有意な相関は認められなかったが,MVC時筋移動距離(RF部:r=-0.70,VL部:r=-0.61),筋硬度変化率(RF部:r=-0.75,VL部:r=-0.56)との間には有意な相関が認められた。最大筋力と筋厚との関連については,筋厚変化率との間には相関が無かったが,安静時筋厚(RF部:r=0.56,VL部:r=0.70)およびMVC時筋厚(RF部:r=0.51,VL部:r=0.52)との間には有意な相関が認められた。重回帰分析の結果,最大筋力に影響する因子としてMVC時筋硬度および安静時筋厚が抽出された。変数の関与の大きさを表す標準回帰係数はMVC時筋硬度(RF部:-0.60,VL部:-0.44)および安静時筋厚(RF部:0.33,VL部:0.60)であり,回帰式の決定係数はRF部(R2=0.60),VL部(R2=0.71)であった。

【考察】
安静時からMVC時までの筋出力に伴う筋硬度の上昇は1.75kg以上の圧迫力において確認され,比較的強い圧迫力のほうが筋の緊張状態の変化を鋭敏に反映することが示唆された。安静時に対するMVC時の変化率から,筋厚はVLよりもRFの方が収縮に伴う変化が大きいのに対し,筋硬度の変化の様相は両筋とも同様であることが明らかとなった。相関分析および重回帰分析の結果から,大腿四頭筋の最大筋力は筋厚のみならず,収縮時の筋硬度や筋硬度変化率とも関連があることが示唆された。

【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,筋力発揮には筋量だけではなく,収縮時に筋のスティフネスを高められるかどうかも影響していることが示唆されたことは,筋機能を探る上で意義のあることと考えられる。
著者関連情報
© 2010 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top