理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-016
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一般演題(口述)
3次元動作解析装置を用いた運動中の肺気量位変化
松下 和弘野添 匡史間瀬 教史高嶋 幸恵荻野 真知子笹沼 里味和田 智弘眞渕 敏福田 能啓
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抄録

【目的】
3次元動作解析装置で運動中の肺気量位変化を測定し、その部位別の体積変化パターンについて検討する。

【方法】
対象は健常男性5名(年齢26.4±4.3歳)。対象者にはCalaら(1996)の方法に準じて、体表面に86個の反射マーカーを取り付け、3次元動作解析システム(Motion Analysis社製 Mac 3D System)を用いて、8台の赤外線カメラにてマーカー位置を測定した。データはサンプリング周波数100Hzで解析ソフト(Motion analysis社製 EvaRT5.04)に取り込み、反射マーカーの経時的な座標データを算出し、それらのデータから胸郭体積変化を算出した。運動負荷装置としては、自転車エルゴメーターを用い、3分間の安静、40wattsでのwarm-upを3分間行わせた後、毎分30wattsのランプ負荷にて、自覚的症候限界域まで行わせた。得られた運動中の胸郭体積変化から安静時、最大運動負荷の20%時、40%時、60%時、80%時、及び最大負荷時の陽性ピークを終末吸気胸郭体積(EIVcw)、陰性ピークを終末呼気胸郭体積(EEVcw)とし、各運動負荷強度中の呼吸の内、5から6呼吸を任意に抽出し、平均を求めた。
またKenyonら(1997)の方法に準じて、胸郭体積(Vcw)を胸部体積(Vrc,p)横隔膜部体積(Vrc,a)、腹部(Vab)に分け、それぞれの陽性ピークをEIVrc,p、EIVrc,a、EIVab、陰性ピークをEEVrc,p、EEVrc,a、EEVabとした。すべての体積は安静時の終末呼気位を0&#8467;とし、そこからの変化量を算出した。統計学検定として、各体積変化について、安静時と各負荷強度での比較をDunnettの方法で行った。すべての検定の有意水準はp<0.05とした。

【説明と同意】
測定前には対象者に研究の趣旨を説明し、書面での同意を得た。

【結果】
胸郭体積変化のパターンを見ると、EIVcwは安静時(0.58±0.10&#8467;)から最大運動時(2.23±0.12&#8467;)にかけて徐々に上昇し、40%時以上では、安静時に比べて有意(p<0.01)に上昇した。EEVcwは安静時(0.00±0.00&#8467;)から最大運動時(-0.24±0.22&#8467;)にかけて徐々に低下し、安静時に比べて60%時、80%時で有意(p<0.05、 p<0.01)に低い値を示した。このEIVcw 、EEVcwの変化を3つの部位別に分けてみると、部位により違いが見られた。終末吸気の各部位の体積変化を見ると、EIVrc,p、EIVrc,aは、EIVcwとほぼ同様の変化を示し、安静時から最大運動時にかけて徐々に上昇し、有意(p<0.05)な上昇が見られた。しかし、EIVabは安静時(0.28±0.04&#8467;)から最大運動時(0.54±0.16&#8467;)にかけてほぼ一定の値を示した。一方、終末呼気の各部位の体積変化を見ると、EEVrc,aは安静時(0.00±0.00&#8467;)から最大運動時(0.11±0.22&#8467;)にかけてほぼ一定の値を示し、EEVrc,pも80%時までは一定の値を示し、最大運動時(0.20±0.16&#8467;)のみ安静時(0.00±0.00&#8467;)と比べて有意(p<0.01)に上昇した。しかし、EEVabはEEVcwと同じような変化を示し、安静時(0.00±0.00&#8467;)から最大運動時(-0.55±0.22&#8467;)にかけて徐々に低下し、有意(p<0.05)な低下が見られた。

【考察】
これらの結果は、運動による換気量増加に伴う呼吸中の胸郭全体の体積変化は、部位により異なることを示す。特に、吸気の肺気量位の上昇は、胸郭の体積変化の中で、主に肋骨の引き上げに伴う体積上昇により起こり、腹部の体積変化は関与していないことがわかった。また、呼気の肺気量位の低下は、腹部の体積が低下することによりなされ、肋骨が安静時呼気レベルより引き下げられることはほとんど関与していないことが明らかになった。これらは吸気時に内肋間筋傍胸骨部、外肋間筋、大胸筋、小胸筋、頚部補助筋らの活動が増加し、呼気時には腹筋の活動が増加した影響が考えられた。

【理学療法研究としての意義】
3次元動作解析装置を用いて対象者に違和感を与えることなく、運動中の詳細な肺気量位の変化を捉えることが可能になると考えられる。

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© 2010 日本理学療法士協会
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