理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-018
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一般演題(口述)
呼気筋の疲労が運動中の呼吸応答に及ぼす影響
杉浦 弘通酒向 俊治太田 清人田上 裕記南谷 さつき
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抄録
【目的】運動中の呼吸は換気量を増大させるために呼吸数を増加させ,1回換気量を増大させている.その換気調節を行う器官の一つとして呼吸筋(呼吸補助筋を含む)があり,なかでも呼気筋は運動時の換気調節において呼吸数を増加させるだけでなく,残気量を減少させ吸気量を増大させる重要な働きを持っている.しかしながら,吸気筋に関する報告は数多くされているが,呼気筋に関する報告は少なく,呼気筋が疲労すると運動中の呼吸応答にどのような影響を及ぼすかは知られていない.そこで,リハビリテーションにおいて呼気筋の重要性を明らかにするため,本研究では呼気筋の疲労が運動中の呼吸応答に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.
【方法】対象は健常成人男性9名(21.0±0.5歳,身長171.2±2.3cm,体重64.8±5.7kg)とした.呼気筋を疲労させた(EMF)条件と呼気筋を疲労させない(CON)条件を設定し,同一被検者により2条件をランダムに行った.EMF条件とCON条件は,少なくとも48時間以上の間隔をあけて施行した.測定方法はスパイロメータ(AS-507,ミナト医科学社製)を用いて,肺機能の測定には努力肺活量(Forced Vital Capacity: FVC),1秒量(Forced Expiratory Volume in 1s: FEV1),1秒率(Forced Expiratory Volume 1.0%: FEV1.0%),呼吸筋力の測定には最大口腔内圧を用いて最大呼気口腔内圧(Maximal Expiratory Pressure: PEmax),最大吸気口腔内圧(Maximal Inspiratory Pressure: PImax)を測定した.各測定値は,肺機能では3回測定した数値の平均値とし,最大呼気・吸気口腔内圧では10回測定したうちの誤差が5%以内の高値3つの平均値とした.運動中の呼吸応答の測定は,呼気ガス分析装置(AE-300S,ミナト医科学社製)を用いて,分時換気量(expiratory minute volume: V(dot)E),酸素摂取量(oxygen uptake: V(dot)O2),一回換気量(tidal volume: VT),呼吸数(respiratory frequency: f)を測定し,運動中の主観的呼吸困難感にはBorg Scale(CR-10)を用いて評価した.心拍数は心電計(cardiofaxV,日本光電社製)を用いて心電図のRR間隔から心拍数(Heart Rate: HR)を算出した.運動方法は,自転車エルゴメータ(AEROBIKE 75XL2ME,COMBI社製)を用いて,ランプ負荷(20w/min)で自転車漕ぎ運動を55-60rpmの回転速度で行った.呼気筋の疲労方法は,呼気筋を疲労させる前に記録したPEmaxの50-60%の口腔内圧を5秒間の呼息,5秒間の休憩を繰り返し20分間行った. 実験プロトコールは,ウォームアップとして自転車エルゴメータ(30w,10分間)を行い,運動開始前に肺機能,呼吸筋力の評価を行い,EMF条件については,呼気筋疲労後にも,再度,同様の評価を行った.運動は,0wからランプ負荷運動を開始し,回転数が55rpmを下回った時点で運動を終了とした.その後,クールダウンを行い,再び肺機能,呼吸筋力の評価を運動直後,15分後,30分後に行った.分析方法は,運動終了時点の運動強度を高強度,その半分の運動強度を中強度とし,呼吸の各測定値は中,高強度となる30秒前からの平均値とした.両条件の肺機能,呼吸筋力,運動中の呼吸応答を比較するため,一元配置分散分析を用いて有意差(P<0.05)が認められた場合,ウィルコクソン符号付順位検定を用いた.
【説明と同意】本研究の趣旨,起こり得る危険性について被検者に十分説明し,同意書に署名を得て行われた.
【結果】肺機能(FVC,FEV1,FEV1.0%)では,運動前後,両条件共に有意差は認められなかった.PEmaxでは,EMF条件において運動前と比べ,呼気筋疲労後,運動直後に有意な低下が認められ,CON条件との比較においても,呼気筋疲労後,運動直後に有意な低下が認められた.PImaxでは,運動前後,両条件に有意差は認められなかった.運動中の呼吸応答では,EMF条件はCON条件と比べ,中強度の運動時ではfの増加とV(dot)O2の減少が認められ,高強度の運動時ではV(dot) Eの減少が認められた.Borg Scaleでは,EMF条件はCON条件と比べ,運動前,運動開始1分後,2分後に増加が認められたが,その後,有意差は認められなかった.
【結論】呼気筋の疲労により,中強度の運動では呼吸パターンを変化させ,高強度の運動では換気量を低下させることが明らかとなった.呼気筋の疲労は,各強度の運動においても呼吸応答に影響を与えることが示唆された.
【理学療法学研究としての意義】本研究は呼気筋の疲労が運動中の呼吸応答に及ぼす影響を明らかにすることで,呼吸器疾患患者や高齢者に対する呼気筋の重要性や呼気筋トレーニングの科学的根拠の一つとなる.
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© 2010 日本理学療法士協会
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