理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-031
会議情報

一般演題(口述)
長座位での側方体重移動が両側外腹斜筋・内腹斜筋の筋電図積分値に与える影響
田尻 恵乃藤本 将志赤松 圭介水上 俊樹貝尻 望早田 荘大沼 俊博渡邊 裕文鈴木 俊明
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キーワード: 長座位, 腹斜筋, 表面筋電図
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抄録

【目的】
脳血管障害片麻痺患者において、体幹筋群の筋緊張異常により長座位でのいざり動作が困難な症例を多く認める。このような症例に長座位にて一側殿部へ体重移動を促すとともに、反対側の殿部を挙上させながらいざり動作練習を実施することがある。この時体重移動側(以下移動側)の体幹筋群は伸張位での活動を、また反対側の体幹筋群には短縮位での活動を促すよう配慮しているが、その明確な筋電図学的検討についての報告は少ない。先行研究において、長座位での側方体重移動が両側の腹斜筋群(内・外腹斜筋重層部位)および腰背筋群の筋電図積分値に与える影響について検討した(第49回近畿理学療法学術大会)。その結果、移動側の腹斜筋群・腰背筋群の筋電図積分値相対値は殿部荷重量の増大に伴い有意な増加を認めた。これは、長座位での側方体重移動に伴った移動側の体幹・骨盤の後方への傾斜・回旋を制動するために関与したと考えた。また反対側の腹斜筋群・腰背筋群の筋電図積分値相対値は殿部荷重量の増大に伴い有意な増加を認めた。これは、側方体重移動の増大に伴った反対側体幹の側屈位と反対側骨盤の挙上位を保持するため関与したと考えた。そこで今回、測定筋を両側の外腹斜筋(単独部位)および内腹斜筋(単独部位)とすることで、腹斜筋群のより詳細な評価・治療ができると考え、長座位での側方体重移動が両側外腹斜筋・内腹斜筋の筋電図積分値に与える影響について筋電図を用いて検討を行ったところ、若干の知見を得たので報告する。
【方法】
対象は健常男性7名とした。開始肢位は被検者に両上肢を胸の前で交差させた長座位とし、両殿部下に2台の体重計を配置した。この時殿裂を2台の体重計の中心上に位置し、各体重計の数値を合計し総殿部荷重量とした。まず開始肢位での両側外腹斜筋・内腹斜筋の筋電図積分値を筋電計ニューロパック(日本光電社製)にて測定した。電極位置について外腹斜筋は第8肋骨下縁に電極間距離2cmとし、内腹斜筋は両上前腸骨棘を結ぶ線より2cm下方の平行線と鼠径部との交点および2cm内方とした。測定時間は5秒間、測定回数は3回とし、その平均値をもって個人データとした。次に一側の殿部へ体重移動による殿部荷重量を総殿部荷重量の60%、70%、80%、90%、95%へとランダムに変化させ、上記と同様に各筋の筋電図積分値を測定した。この時頭部は正中位とし、両側肩峰を結ぶ線が水平位となるよう規定し、体幹・骨盤の回旋が生じないよう確認した。また両踵は離床しないようにした。そして開始肢位での各筋の筋電図積分値を1とした筋電図積分値相対値を求め、長座位での側方体重移動が両側外腹斜筋・内腹斜筋の筋電図積分値に与える影響について検討した。統計処理には一元配置の分散分析とTukeyの多重比較を用いた。
【説明と同意】
本実験ではヘルシンキ宣言を鑑み、あらかじめ説明された本実験の概要と侵襲、および公表の有無と形式について同意の得られた被験者を対象に実施した。
【結果】
外腹斜筋の筋電図積分値相対値について、移動側は殿部荷重量の増大に伴い有意(p<0.05)に増加し、反対側は増加傾向を認めた。また内腹斜筋の筋電図積分値相対値について、移動側、反対側ともに殿部荷重量の増大に伴い有意(p<0.05)な増加を認めた。
【考察】
殿部荷重量の増大に伴い、移動側の外腹斜筋・内腹斜筋の筋電図積分値相対値は有意な増加を認めたことに関して、本課題では殿部荷重量の増大に伴い骨盤が後傾・移動側回旋しようとすることで、移動側の骨盤・体幹が後方へ傾斜しようとする働きが生じると考えられる。これに対し移動側の外腹斜筋は体幹の反対側への回旋作用としてその肢位保持に関与したと考えられる。さらに内腹斜筋は骨盤の反対側回旋(前方回旋)作用があることから、移動側の内腹斜筋は後外側へ傾斜しようとする骨盤を反対側回旋させる作用としてその肢位保持に関与したと考えられる。また、殿部荷重量の増大に伴い、反対側の外腹斜筋の筋電図積分値相対値は増加傾向を認め、内腹斜筋は有意な増加を認めた。これについて渡邊らは座位(端座位)での側方への体重移動時において、反対側の内外腹斜筋の働きが座位での側方移動に伴う体幹の側屈作用には重要であり、より内腹斜筋での関与が大きいことを報告している。このことから本研究でも、反対側の外腹斜筋は体重の側方移動に伴う反対側体幹の側屈作用として、また内腹斜筋は反対側体幹の側屈を伴う反対側骨盤の挙上位を保持・固定する作用としてその肢位保持に関与したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
先行研究と本研究の結果をふまえ、長座位での側方体重移動練習を行う際において、反対側の体幹筋に加え、移動側の腹斜筋群・外腹斜筋・内腹斜筋・腰背筋群についてもそれぞれ評価・治療することの必要性が示唆された。

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© 2010 日本理学療法士協会
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