理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-032
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一般演題(口述)
座位における体幹回旋角度が体幹筋の筋電図積分値に及ぼす影響について
北野 律子松岡 雅一熊崎 大輔山内 仁大工谷 新一
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抄録

【目的】
我々は、先行研究において健常男性を対象とした座位での体幹右回旋運動で殿部への荷重の違いに着目し、体幹筋の筋電図パターンについて検討した。その結果、荷重が左に移動する群では体幹右回旋初期に骨盤の右挙上を伴う体幹の右側屈が出現し、体幹筋の筋活動に違いがみられた。このことから、理学療法や介護・介助場面において体幹回旋を用いて荷重方向を調整する場合には骨盤傾斜の有無に注意しなければならないことが示唆された。しかし、体幹回旋角度の大小の違いが、体幹筋の筋電図積分値に及ぼす影響については明確ではなく、今後の課題となった。本研究では健常男性における体幹右回旋運動において体幹回旋角度と体幹筋の筋電図積分値との関連性を明らかにすることを目的に、体幹回旋角度の大小の違いが、体幹筋の筋電図積分値に及ぼす影響について検討した。
【方法】
対象は、神経学的および整形外科学的に問題のない健常男性19名で、平均年齢は26.45±4.31歳であった。運動課題は端座位での体幹右回旋とした。回旋時の殿部への荷重は、座面に体重計を左右に2台設置し、静止座位から右への最大回旋時に右へ荷重するRt群と左への荷重するLt群に分類した。三次元動作解析器UM-CATIIを用い、左右烏口突起を結ぶ線(以下、肩甲帯)と左右ASISを結ぶ線(以下、骨盤帯)とのなす角を算出し、肩甲帯及び骨盤帯の回旋角度と傾斜角度を算出した。同運動中の左右の内外腹斜筋、広背筋の筋活動を表面筋電図Myosystem1400で測定し、体幹最大回旋1秒間のIEMGを静止座位1秒間保持における同名筋のIEMGで除し、各筋の%IEMGを算出した。
全被験者の体幹回旋角度の中央値を求め、中央値より大きい群(L群)と小さい群(F群)の2群に分け、肩甲帯及び骨盤帯の回旋と傾斜角度、%IEMGについて比較検討した。統計学的検討には対応のないt検定を用い、有意水準は危険率5%未満とした。
【説明と同意】
対象者には本研究の目的および方法を説明し、同意を得た。
【結果】
荷重側での分類では、Rt群が15名、Lt群が4名となり、この2群間において体幹回旋角度を比較した結果、有意差は認めなかった。全被験者の体幹回旋角度の中央値は25.2°で、L群が10名、F群が9名であった。L群では骨盤帯が左回旋、左挙上、肩甲帯が左下制する傾向があり、F群では骨盤は右挙上、右回旋する傾向があった。L群とF群の2群間における肩甲帯および骨盤帯の傾斜角度、骨盤帯の回旋角度の比較では有意差は認められなかったが、肩甲帯の回旋角度はL群が有意に右回旋していた(p<0.05)。また、この2群間における各筋の%IEMGにおいては有意差を認めなかった。
Rt群においてL群とF群に分類した結果、L群は9名、F群は6名であった。この2群間で骨盤の傾斜角度を比較したところ有意差は認めなかったが、肩甲帯の傾斜および回旋、骨盤帯の回旋の比較において、肩甲帯はL群が有意に左傾斜、右回旋し、骨盤帯はL群では左回旋、F群では右回旋していた。また、この2群間において各筋の%IEMGの比較では、右外腹斜筋においてF群が有意に高値を示した(p<0.05)。
【考察】
右内腹斜筋の%IEMGはL群とF群の比較で有意な差は認められなかった。我々の先行研究から、体幹回旋時の内腹斜筋では筋活動の起こるタイミングが重要であることが明らかになっており、今回の結果から、内腹斜筋においては筋活動の量よりも筋活動の起こるタイミングが体幹回旋角度の変化に影響を与えると考えられた。またRt群をL群とF群に分類し、各筋の%IEMGを比較した結果、右外腹斜筋はF群が有意に高値を示した。これはF群では体幹回旋に伴って骨盤が右回旋したことにより、胸郭と骨盤を連結し安定性を高めるために右外腹斜筋の筋活動が増加したためと考えられた。Neumann,(2005)は体軸回旋において体幹伸展が重要な機能を果たし、腹斜筋群と体幹伸展筋のバランスが重要であると述べている。つまり、F群では右外腹斜筋の筋活動が増加したことにより、胸郭が引き下げられ、体幹が屈曲しやすくなり、体幹回旋に伴って生じる伸展が起こりにくくなったことで回旋角度が減少したと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により、体幹右回旋角度を増加させるには、内腹斜筋においては骨盤帯を安定させる働きと体幹回旋時に筋活動の起こるタイミングが重要であると考えられた。また外腹斜筋においては、回旋方向と同側の筋活動に対して考慮する必要があることが示唆された。

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© 2010 日本理学療法士協会
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