理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-033
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一般演題(口述)
表面筋電図波形から神経支配域の位置を調べる方法
西原 賢河合 恒細田 昌孝千葉 有須永 康代鈴木 陽介森山 英樹井上 和久田口 孝行久保田 章仁原 和彦藤縄 理
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抄録

【目的】表面筋電図は筋活動の定量的評価に広く用いられている。筋活動の正しい分析のためには、表面筋電図波形の振幅や周波数成分が変動しやすい神経支配域から、使用する電極を充分離して筋線維走行方向に沿って腱との間に貼り付ける必要がある。本研究では、随意収縮時の表面筋電図の波形の形状が、神経支配域の位置によってどのように変動するかを調べる技術を開発した。神経支配域は、筋活動によって筋長が変わると共に移動する。即ち、皮膚に電極を貼り付けて、運動を行っている間に表面電極と神経支配域との位置関係は絶えず変動する。通常は最初に電極を貼り付けた部位の筋活動を記録していることを前提に筋電図波形を処理分析することになる。ただし、ある関節角度で筋電図波形の振幅や周波数成分が急な変動を示した場合、それが純粋に筋活動によるものか、神経支配域の影響によるものかを確かめることは、運動解析の信頼度向上のためには好ましいことである。本研究で開発した方法により、筋電図を記録したときの電極を中心とした神経支配域の位置が、その記録波形に及ぼす影響について極めて明確な結論に至ったので報告する。
【方法】まず、等尺性肘屈曲運動中の健常男子21人から、8チャネル表面電極列で上腕二頭筋の筋電図を記録した。第1チャネル目を基準に筋電図波形を平均することで20人の被験者から、筋中央付近にある神経支配域の位置を推定した。次に、筋電図波形からパルスのピークをチャネル毎に検出し平均することで、3相性のパルスを算出して第1相と第3相のピーク値同士を比較した。推定した神経支配域の近位と遠位におけるピーク値を比較する統計処理には、nonparametric Wilcoxon Matched-Pair Signed-Rank Testを用いた。
【説明と同意】被験者全員には研究の目的と方法について資料を提示して充分に説明を行い,同意を得た。
【結果】数十以上のパルスを検出して平均すると明確なチャネル同士の位相のずれが見られるが、900位の平均ではむしろ波形の細かな変動が認められた。本研究では、200余りのパルスを検出平均して平均パルスを算出した。神経支配域から伝播する活動電位の起始点が複数箇所に及んでいて神経支配域の特定が不明瞭だったひとりを除いて、20人の被験者から神経支配域が推定された。各被験者の8つのチャネル毎の平均パルスを算出した。チャネル毎の平均パルスの第1相と第3相のピーク値同士の比較においては、推定された神経支配域から近位の4チャネルは第1相のピーク値、遠位の4チャネルは第3相のピーク値が優位により大きな値を示した(p < 0.01)。
【考察】本法により、研究者の主観によるばらつきが少ない、神経支配域の推定が可能となった。ひとつの運動単位だけを記録した場合、基本的な活動電位は3相性で、サイズがほぼ同じ位の最初の2つの相と、その5-10%位の最後の相からなっていることが知られている。もし、ひとつだけの運動単位活動電位が発生した場合、理論的に各相のピークが+で始まるか-で始まるかは記録される双極電極が神経支配域より近位にあるか遠位にあるかに関わっている。本研究では、表面筋電図から算出した平均パルス波形が、この運動単位活動電位の形状を反映していることを示唆している。統計処理した結果からも、電極と神経支配域の位置関係を推定するには充分対応できていることが分かった。運動時、関節角度の変化によって筋電図の振幅や周波数成分が著しく変化した原因は、神経支配域の影響による可能性もある。この場合、平均パルスの第1相のピーク値と第3相のピーク値の大小の逆転があったかどうかで確かめることができる。もし、神経支配域から遠位部の腱の間に電極を貼り付けたつもりで筋電図を記録したものであるなら、本法で算出した平均パルスでは、第3相のピークは第1相より大きくなる。近位部においても同様のことが考えられる。関節角度の変化によって筋電図の振幅や周波数成分が著しく変化したら、神経支配域の影響による可能性もある。この場合、平均パルスの第1相のピーク値と第3相のピーク値の大小の逆転があったかどうかで確かめることができる。これは記録した筋電図の信頼性を調べる上で大変重要となる。
【理学療法学研究としての意義】本研究の最大の利点は、理学療法で運動解析のために既に記録してある筋電図の波形から、電極と神経支配域との位置関係が調べられることである。筋電図を用いた研究は理学療法学研究においてかなりの数に及んでおり、このような研究の信頼性向上に用いられる。結論として、本法は筋電図による筋活動の分析結果の検証に活用できる。

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© 2010 日本理学療法士協会
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