理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-012
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一般演題(ポスター)
健常児における最適歩行の獲得過程
金井 欣秀大橋 ゆかり
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抄録
【目的】
人間が歩行を行う際に,歩行速度は歩幅と歩行率という無限の組み合わせを持つ二変数によって決定される.歩幅を歩行率で除することにより,ある一定の速度範囲内では普遍の変数である歩行比が示される.たとえ歩行速度が変化しても,歩幅及び歩行率間の比である歩行比は幅広い範囲でほとんど変化しないことが知られている.これまで歩行比に関し健常成年,中年,老年,パーキンソン病患者における報告がなされている(外里ら,2003;Murray, et al.,1978;Nagasaki,et al. ,1996).関屋ら(1997)は若年群男子において速度にかかわらず,歩行比は一定であり,若年群女子においても速い速度範囲では歩行比が一定であると述べている.外里ら(2003)は男女ともに歩行速度が増加するに伴い歩幅と歩行率は増加し,両者は近似の関係にあると述べている.八倉巻(2002)は1歳児を中心とした歩行研究において歩行比からみると成人歩行に至るのはおよそ15歳であると述べている.以上のような先行研究に基づき,本研究では健常児の歩行発達段階において,歩行比の変化に影響を与える要素を検討し,歩行発達を類型化していく.

【方法】
対象は1~6歳の健常児で整形外科的・脳神経的異常を伴わず,独歩可能な児138名のうち,測定が中止された児を除く118名とした.内訳は1歳群 9名(平均月齢19.3±3.0ヶ月,平均身長79.0±3.6cm), 2歳群 10名(平均月齢29.3±3.5ヶ月,平均身長88.5±4.9cm), 3歳群 24名(平均月齢41.4±3.5ヶ月,平均身長95.1±4.2cm), 4歳群 13名(平均月齢54.1±4.5ヶ月,平均身長103.2±4.7cm), 5歳群 31名(平均月齢65.1±3.5ヶ月,平均身長107.7±5.2cm), 6歳群 31名(平均月齢75.7±2.7ヶ月,平均身長115.2±5.0cm)であった.直線歩行路(8m)を設定し,そのうち中間の5mをデータ取得領域とした.歩行速度は対象者が通常歩行するのに用いる速度を促した.時間的・空間的パラメータ(歩幅,歩行速度,歩行率,歩行比=歩幅/歩行率)を測定した.歩数を数え,歩幅はフットプリント方式にて1mm単位で測定した.歩行時間を測定することで,歩行速度,歩行率を算出した.歩幅(m)を歩行率(steps/ min)で除し,歩行比を算出した.統計解析にはSPSS16.0J for Windowsを用いた.重回帰分析を行い,独立変数を月齢と身長とし,従属変数を歩行比とした.

【説明と同意】
本研究実施にあたり,対象者及び保護者には研究の目的と内容,対象者の受ける利益と不利益,個人情報の保護,参加の拒否と撤回などについて文章を用いて説明を行った.自ら同意を示すことができない対象者に対しては対象者の賛意を確認したうえで,対象者の御家族より承諾書に署名を得た.自ら賛意を示すことができる対象者に対しては,両者から承諾書に署名を得た.なお,本研究は茨城県立医療大学倫理審査会の承認を得て実施された.

【結果】
重回帰分析を行った結果,身長の非標準化係数0.007(P<0.05)に対し,月齢の非標準化係数5.286E-6の有意確率はP>0.05であり,身長の従属変数への影響度が高いことが分かった.さらに,共線性の診断により,月齢が身長への共線性を持つ可能性が示唆された.そのため,月齢を除き,再度身長と歩行比を用い単回帰分析を行った.結果,身長の非標準化係数0.008の有意確率はP<0.05を示した.さらにR=0.785であることから身長は歩行比と相関をもち,回帰直線は身長と歩行比間で有意な直線回帰関係を示すことがわかった.

【考察】
本研究結果より,身長が歩行比に影響を与えることがわかった.独立変数として挙げた月齢は一般的に身長と相関をもつ.すなわち,月齢が高ければある一定の高さまで身長は伸びるが,個人の発達の成熟度合いにより身長が低い場合もある.そのため,今回の結果である歩行比の変化は月齢よりも身長との相関が高く示されたと思われる.歩行比は,今回測定した月齢の範囲では月齢に比例して増大するが,その後は増大率が低下しながら,成人の歩行比である0.006(Nagasaki,et al.,1996)に近づくものと考えられる.

【理学療法学研究としての意義】
上記のパラメータを将来的に脳障害児・者の理学療法効果判定の一助として用いるために,得られた健常児のデータを脳障害児・者のデータと比較検討し,介入効果判定指標として妥当であるかどうかを調査することも想定している.歩行比測定テストは6分間歩行テストや10m歩行テストといった既存の評価指標と並ぶ歩行評価スケールとして脳障害児・者に対する新たな指標となる可能性がある.
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© 2010 日本理学療法士協会
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