理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-060
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一般演題(ポスター)
Yチューブを用いた左右上腕同時血圧測定法の妥当性の検討
村上 裕亮古川 勉寛花野 雄司星 建二郎天野 優子半田 健壽藤原 孝之
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キーワード: 血圧, 水銀血圧計, 左右差
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抄録

【目的】臨床現場で安易に左右上腕同時血圧測定する方法として水銀血圧計同種機器を2台, 空気配管用三又管で接続し,2台の水銀血圧計に同時に加圧できるように工夫し,左右上腕の血圧を同時に測定することを可能にした.それにより,確かなリスク管理や血液循環促進作用のある手技,物理療法の評価に用いることが期待される.本装置での測定には2名の検査者が必要である.そこで測定値の信頼性・妥当性の検討するために,(1)検査者間誤差,(2)繰り返し測定検査者内信頼性,(3)血圧左右差について検討した.
【方法】検査者は2名で行った(男性理学療法士1名,女性作業療法士1名).対象者は特にこれまで血圧の異常,心臓病等の循環器疾患の既往のない健常人9名(男5名,女4名;平均年齢41歳,24~60歳)とした.手順として各検査者は,被検者の橈骨動脈の血圧をそれぞれ左右いずれかを測定する.加圧は検査者1名が行う.5回測定し,加圧者を交代しさらに5回測定する.測定部位を左右交代し,以上の方法で5回ずつ測定する(計20回測定).加圧するか否か,検査者がAかBか,そして測定肢が左か右かという条件別の組み合わせで8通りの群(それぞれ5回測定)をつくり比較検討した.検査者間誤差について2元配置分散分析,繰り返し検査者内信頼性について級内相関係数(以下ICC)ICC(1,20),左右差についてT検定を使用して検討した(有意水準 0.05).なお統計処理には統計ソフト(SPSS 社製,SPSS11.5J for windows)を用いた.ICCはLandisらによるICCの判定基準を使用した.
【説明と同意】実施に当たり本研究の目的,方法,研究期間,個人情報の取り扱いについて説明した後,文書で同意を得られたものを対象とした.
【結果】検査者間誤差について2元配置分散分析では各グループ,すべての要因間 p>0.01で有意な差は認められなかった.繰り返し検査者内信頼性について検査者A収縮期でICC(1,20)は0.79(substantial),拡張期では0.92(almost perfect)となった.検査者B収縮期では0.74(substantial),拡張期では0.83(almost perfect)となった.左右差についてT検定は0.0001から0.822と対象者により違いがみられた.以上の結果から検査者間誤差については有意な差は認められず,検査者内においては信頼性がみられ,左右差について一部有意な差がみられるという結果になった. 収縮期絶対左右差が10mmHg以上の左右差が全体の19.4%,拡張期が全体の16.1%みられた. (絶対左右差は右-左の絶対値)
【考察】本研究の装置は,検査者が2名必要であり,測定技能によっての差がありうる.今回の結果から検査者間誤差については有意な差は認められなかった.検査者によって誤差を生じる可能性があるが,左右差の傾向は評価できると考える.左右差の傾向があれば高い方の血圧を採用することができると思われる.血圧左右差について両側同時血圧測定で得られる,対象者個人における絶対左右差の意義について,橋本らは高血圧境界域の場合,左右一方のみで評価すると誤った診断を下してしまう可能性があるとしている. 10mmHg以上の絶対左右差がほとんどの対象者に含まれた(8/9人)のは,今回の対象者を健常成人に設定をし,年齢や性別を統一しなかったため,これらの要因が影響している可能性がある. 体内には左右差が生じる場合があり高血圧境界域の場合では左右によって診断が変わる場合があるため,個人の血圧左右差を十分認識したうえで血圧測定することが望ましい.
【理学療法学研究としての意義】本研究の装置は,パスカルの原理で左右同時に測定可能である.しかし,検査者が2名必要であり,測定技能によって差が生じることが懸念された.しかし今回,経験1年の理学療法士と作業療法士でも検査者間に有意な誤差は認められなかったことから臨床応用が期待できる.今後,誤差検定済みの自動血圧測定装置にて左右上腕に同時に加圧できれば検査者間による問題は解決できると思われる.

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© 2010 日本理学療法士協会
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