理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-061
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一般演題(ポスター)
褥瘡有病患者における理学療法実施量の褥瘡関連因子への影響
高橋 博愛辻 義輝荒牧 健太坂本 憲治守永 圭吾
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抄録

【目的】
褥瘡有病患者では低栄養かつ身体機能低下が著しいため、運動療法を主体とする理学療法(以下PT)施行において適切な運動負荷量を考慮しなければならない。また、離床時での褥瘡部のずれや局所の圧迫など褥瘡治療を阻害することも考えられる。今回、PT実施量の違いによる褥瘡治療関連因子への影響についてカルテより後方視的に調査した。
【方法】
対象は平成20年3月から平成21年2月に当院入院中であった褥瘡有病患者(以下褥瘡患者)のうちPTを実施し、褥瘡が治癒あるいは軽快した72名(死亡退院を除く)とした。さらにPTを1単位以上実施可能であった者をA群(34名)、それ以外をB群(38名)とし、それぞれ年齢、性別、在院日数、有病期間、褥瘡発生前のBMI、ブレ―デンスケール、褥瘡発生時あるいは入院時のNPUAP分類、Alb値(以下発生時Alb値)、Hb値(以下発生時Hb値)、PT開始時でのBarthel Index(以下開始時BI)、および退院時のBarthel Index(以下退院時BI)、Alb値(以下退院時Alb値)、Hb値(以下退院時Hb値)について比較検討した。統計解析はJSTAT for Windowsを使用し、危険率5%未満で有意とした。
【説明と同意】
データは個人が特定されないように配慮した。
【結果】
A群、B群それぞれの平均年齢は81.4±9.07歳、81.8±9.60歳、性別は男性14名、女性20名に対して男性20名、女性18名、平均在院日数は94.3±43.80日、72.2±48.06日、平均有病期間は24.9±23.62日、33.1±37.69日、平均BMIは19.6±3.38kg/m2、18.5±3.10kg/m2、平均ブレ―デンスケールは14.6±2.54点、13.8±3.31点、NPUAP分類はstage1:16名、stage2:13名、stage3:3名、stage4:2名に対してstage1:9名、stage2:22名、stage3:6名、stage4:1名、平均発生時Alb値は2.9±0.48g/dl、2.7±0.56g/dl、平均発生時Hb値は10.0±2.20g/dl、10.3±1.92g/dl、平均開始時BIは16.4±19.02点、15.2±19.44点、平均退院時BIは51.1±32.81点、25.4±30.49点、平均退院時Alb値は3.2±0.47g/dl、2.8±0.52g/dl、平均退院時Hb値は10.7±1.39g/dl、10.3±1.90g/dlであった。A群はB群と比較し在院日数(P=0.046)は有意に長く、退院時BI(P=0.001)、退院時Alb値(P=0.0004)は有意に高かった。有意ではないがA群の有病期間は短い傾向であった。褥瘡の深達度であるNPUAP分類に有意差はなかった。
【考察】
当院ではPT複数単位実施にあたって、少なくとも座位レベル以上の離床プログラムを促し患者の活動性向上に努めている。本調査では、A群にて有病期間が短い傾向であったことや退院時Alb値が高値であったことより、PT実施量の増加は、褥瘡治癒や栄養状態の改善に寄与し、また、離床に伴うずれや局所の圧迫および運動量の過負荷など褥瘡治療を阻害する外的内的要因は少ないものと推察される。今回、軽症の褥瘡治癒例が大半であったことから、褥瘡が重度化する前でのPT介入および実施量の検討は、褥瘡治療への負の影響を過大評価せずに、患者の原疾患、褥瘡を含めた合併症および障害像に応じてPTを実施していくことが重要であると思われた。
【理学療法学研究としての意義】
2002年度の診療報酬改定で「褥瘡対策未実施減算」が施行されたのを機に褥瘡対策への関心が高まり、各病院にて褥瘡対策チームの活動が盛んになっている。また、理学療法士もその一員として機能している。しかし、褥瘡患者に対してのPTを含めたリハビリテーション(以下リハ)の効果は十分に根拠のあるものとは言えず、さらにリハ実施率の低さ(43.4~52.1%)からもリハ適応の可能性がある褥瘡患者に対して効果のあるPTを提供できていないのかもしれない。本調査において対象を限定し、栄養状態をAlb値、Hb値のみで調査したことによりPT実施量の効果について十分に提示することが困難であったが、全身状態不良の褥瘡患者であるからこそ、運動療法など専門性を生かしたPT介入が不可欠であると思われた。

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© 2010 日本理学療法士協会
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