理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-011
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一般演題(ポスター)
インナーユニットが姿勢・運動制御に与える影響
重心動揺計を用いての検討
戸塚 千香子青木 寛幸岩根 直樹加藤 美代子磯部 康之林 加奈子内藤 香菜子須山 夏加大森 啓之山田 瑞希池田 雅一齊藤 勇太
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抄録

【目的】体幹の安定性を獲得することは,姿勢・運動制御の改善,パフォーマンスの向上に効果があるという記述が散見される.これについては,リハビリ分野のみならずスポーツ分野等でも重点を置く傾向がみられている.その中でも特にインナーユニットの強化が注目されている.臨床場面の中で,姿勢・運動制御は立位姿勢や歩行能力に与える影響が大きく,日常生活の自立において非常にNeedが高い.今研究では,インナーユニットの強化が姿勢・運動制御にどのような影響を与えるかを検討した.

【方法】対象は10名(男性5名女性5名),年齢平均33.1±4.77(25~43)歳で,インナーユニットを強化するため,全対象者にピラティスを実施した.方法は1週間1回の60分の指導,各自の自主練習を8週間実施とした.パフォーマンスの変化の指標として重心動揺計(アニマ株式会社製 G-6100)を用いて,エクササイズ開始前(以下,開始前),エクササイズ開始4週後(以下,4週後),8週後(以下,8週後)で開眼立位での重心動揺の変化を比較検討した.重心動揺測定はいずれも開眼で,直立閉足(以下,閉足),両上肢90°外転位で右片脚立位(以下,右片脚),左片脚立位(以下,左片脚)の3条件とした.閉足条件では開眼した状態で閉足立位状態を30秒間,右片脚・左片脚条件はそれぞれ開眼にて閉足立位・両上肢90°外転位を開始肢位として,5秒後に片脚立位をとり,開始から30秒間の重心動揺を記録した.得られた測定数値を,開始0~30秒間の計測数値(以下,30秒),左右片脚のみ開始3~10秒間の計測数値(以下,3~10秒)で分析した.測定項目は30秒で総軌跡長,外周面積,前後動揺平均中心偏位,左右動揺中心偏位,3~10秒で総軌跡長,外周面積,左右最大振幅,左右動揺平均中心偏位とした.統計処理にはSPSS Statistics 17.0 ,Repeated Measure ANOVAを用い,p<0.05を有意差ありとした.また,実験後被験者に対しては利き足についてアンケートを聴取した.

【説明と同意】被験者は文書にて研究の趣旨を説明し同意を得たボランティアの当施設内職員である.

【結果】以下の項目が開始前に比べ4・8週後において,改善がみられた.閉足では,左右動揺平均中心変位(p<0.000)にて有意差が認められた.右片脚立位では,30秒にて総軌跡長(p=0.007),外周面積(p=0.011),左右動揺平均中心変位(p<0.000),3~10秒にて総軌跡長(p=0.020),外周面積(p=0.046),左右動揺平均中心変位(p<0.000)にて有意差が認められた.左片脚立位では,30秒にて総軌跡長(p=0.001),外周面積(p=0.014),左右動揺平均中心変位(p<0.000),3~10秒にて外周面積(p=0.017),左右動揺平均中心変位(p<0.000)にて有意差が認められた.アンケートの結果,利き足は右脚が8名,左脚が2名であった.

【考察】インナーユニットを強化することが重心動揺を減少させる要因になることが示唆される結果となった.このことにより,インナーユニットを強化することは体幹の安定性を改善させるのみならず,姿勢・運動制御の改善の一助になったと考えられる.Leeら(1998)の述べる身体機能の統合されたモデルがある.今回の結果は,そのモデルの中のForce Closure(筋肉・筋膜)の機能向上をもたらし,重心動揺の減少に結びついたと考える.一方,動的バランス時にみられる体幹の特徴的な役割には,フィードフォワードコントロールがある.片脚条件の3~10秒での結果は,このことに対してもインナーユニットの関与を示していると考えられる.Shumway-Cookら(1995)が左右の制御は股関節と体幹の戦略によると述べている.30秒・3~10秒の両方において左右方向の動揺が改善したことは,この報告を裏付ける結果となった.さらに,片脚での改善の左右差が見られた要因としては,アンケートの結果から左脚を軸足としやすい傾向が被験者内にあったことより,左片脚はLeeらのモデルでのForm Closure(骨・関節・靭帯)を優位に機能させていた結果ではないかと考えられる.インナーユニットの強化は姿勢・運動制御において,特に動的バランスの改善に影響を与えている結果が示唆された.骨性支持等のForm Closureに依存した安定性では動作を効率的,円滑に行うことが困難となりやすい.その為インナーユニットの強化は動的バランスを必要とする立位・歩行能力の改善の一因になると考えられる.

【理学療法学研究としての意義】インナーユニットの強化により,立位・歩行能力の改善が期待できる.このことから,転倒予防教室などの高齢者健康増進プログラムの1つとして有用であると考える.

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© 2010 日本理学療法士協会
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