理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-020
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一般演題(ポスター)
ハンドヘルドダイナモメーター(HDD)を用いた等尺性膝伸展筋持久力評価の方法
鈴木 康裕砂川 伸也小柳 春美千住 秀明
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抄録

【目的】本研究の目的は、健常高齢者において、ハンドヘルドダイナモメーター(HHD)とベルトを用いた等尺性膝伸展筋持久力測定の妥当性について検討することである。
【方法】対象は当院外来リハビリ、通所リハビリで通院されている65歳以上の高齢者8名、平均年齢77.8±4.4歳、身長153±4.5cm、体重53.7±6.2kg、WBI41±10%であり、左側下肢を測定側とした。HHDにはアニマ社製徒手筋力測定器μTasF-1を用いて、筋持久力測定を行った。被検者の肢位は股関節90°、膝屈曲90°で椅子脚と左足首を固定した椅子坐位をとり、最大等尺性の膝伸筋の収縮を行い、その最大値を最大随意収縮(MVC 90)とした。本法は準最大値を筋疲労負荷量として設定し、MVC90の40%(40%MVC90)と定義した。MVC90を先ず計測しておくことで、その40%も予め算出されHHDの液晶モニターで確認が可能であった。この強度で一定間隔での音響信号によって、20回/分、1秒間の継続時間で等尺性筋収縮を繰り返し、5分間継続する方法を用いた。この方法で5分後、10分後、15分後でそれぞれMVC90≒準最大値を求めることで、安全な負荷量を設定し、最終的に20分間(5分間×4セット)を筋疲労負荷時間とした。そして20分後のMVC 90の低下を絶対値で示すことで疲労指数と定義し、初期値の%として算出した。統計処理は、1-2回目における疲労指数の検者内信頼性を求めるために、ICC(級内相関係数)を用いた。また筋疲労負荷そのものの検証のため、負荷前後の筋力推移の比較のためにt検定を用いた。
【説明と同意】対象者には筋持久力評価に関する手順と共に、研究目的、研究方法、倫理的配慮、研究結果の報告について説明し、同意を得た。
【結果】筋持久力測定の20分後の平均疲労指数は、1回目が78(±12)%、2回目が81(±13)%となった。このときの筋力推移(MVC90:Nm/kg)は、負荷前/20分後において1回目が1.26/0.97、2回目が1.27/1.05であり、何れも有意に低下していた。そして20分後の疲労指数の級内相関係数はICC(1.1)=0.74、ICC(1.2)=0.85であった。
【考察】本法は一定間隔毎における筋疲労負荷を与えることで筋疲労を誘発させ、その結果をもって筋持久力評価とした負荷方式である。MVC90を一定間隔毎に計測し、最終的に20分後において負荷前と比較をすることで、その筋持久力能力を反映する指標に用いられると考えた。そして20分後における疲労指数を、同一対象者、同一条件化において一定期間後に計測し、その再現性を算出することで、本法の妥当性の検討方法になりうると考えた。同一群内での筋疲労負荷は確実に筋疲労を誘発し、1-2回目共に有意にMVC90は低下し、疲労指数のICC(1.1)は0.74と相関を認めることができた。ただし先行研究においてICCは0.7以上で普通、0.8以上で良好、0.9以上で優秀であるとの報告があり、さらにその相関を強くするためには対象者を増加する、負荷量や負荷時間などについては再考の余地があると考えられた。また一定期間を4週間で設定したが、再現性を検証するためには、今後本法の疲労回復に要する期間など考慮したうえで見直す必要があると考えられる。そしてICC(1.2)=0.85の結果から、本法においては1回のみの計測ではなく、2回平均値を求める手法が再現性に優れた方法であることがわかった。
【理学療法学研究としての意義】HHDを使用した研究は数多く報告されているが、筋持久力評価についての報告は少ない。従来の筋持久力評価の手法としては、筋電図や等速性筋力測定器を用いた場合が多く、数値における信頼性は高いものの高価な上、使用方法が煩雑などで臨床的であるとはいい難い。また片山らによれば、膝伸展筋の筋持久力測定を行う手法として、その評価指標を重錘を用いた膝伸展運動の遂行回数や、等速性筋力測定器を用いた膝伸展運動のトルク値とした場合では、その際最大随意収縮を限界域まで繰り返すなど、健常者を想定した高負荷方式であり臨床応用には不向きな面も多い。そこで今回筋持久力評価として用いた本法は、重症心不全患者に対する筋持久力評価の手法を改変したものであり、体力の低下した症例でも遂行できるように配慮してある。本法は安全性に十分留意してあるうえ、対象者のドロップアウトを回避する工夫がなされており、対象が異なるものの高齢者などには比較的実施しやすい手法であると考えられる。40%MVC90 は筋疲労負荷としてリスクは少なく、また先行研究によれば高齢者によるHHDを用いたグレーディング評価では40%MVC90の場合、その絶対誤差は15.4%程度であり、本法の安全性に問題はなかったと考えられる。そして一定の再現性が証明されたことからも臨床的であるといえる。今後更なる対象者の上積みが必要であると考えられるが、本法は今後の臨床における筋持久力評価の有効な手段となりうることが示唆された。

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© 2010 日本理学療法士協会
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