抄録
【目的】過去の全国理学療法学術大会において、ストレッチポールが体幹の表面筋に関するアプローチに有効であると報告したが、その効果に関する研究は少ない。今回は、初回の測定から約1年後に、再度同一被験者を対象に同一の方法を用いて、同様の傾向の有無を検討することを目的とし、ストレッチポール上における左右の腹斜筋と脊柱起立筋の筋活動を表面筋電図を用いて検討した。【方法】対象は、前回と同様の被験者で、神経疾患のない健常男性9名。平均年齢32±3.4歳、身長172±2.8cm、体重62±2.9kgであった。方法も前回と同様とし、床上とストレッチポール上において、1)安静臥位:背臥位にて股関節・膝関節屈曲位、2)右上肢挙上位:1)の肢位から右肩関節屈曲90°肩甲骨前方突出位、3)右Active Straight Leg Raising(以下ASLR):1)の肢位から右ASLRの運動を3パターンとし、それぞれの運動において左右の腹斜筋、脊柱起立筋の等尺性収縮を測定した。ストレッチポールは、株式会社LPN社製の直径15cm×長さ98cmを使用した。表面筋電図は、NeuropackMEB2200(日本光電社製)を使用し、測定の際に交流障害がないことを確認した。測定時間は10秒間で、 1秒間ずつで3箇所取り出し、その平均値を算出した。また,筋電図の解析はRoot Mean Square値(以下RMS値)を用いた。統計は、前回及び今回の各体位における床上とストレッチポールのRMS比(ストレッチポール/床上)を求め、平均変化率を算出した。また、各個人間における床上とストレッチポール上の値についてT検定を用い、有意水準は5%とした。【説明と同意】対象には、研究内容及び方法について十分な説明を行い、同意を得た。【結果】平均変化率は、右腹斜筋で前回の安静臥位、右上肢挙上、右ASLRはそれぞれ147±36% 、99±35% 、144±74%。今回は112±79%、70±41%、155±92%。また、左腹斜筋では前回、129±59%、100±49%、129±59%、今回は112±29%、83±38%、145±68%であった。左右腹斜筋ともに、前回と同様に安静時、右ASLRでは平均変化率が増加する傾向であるが、今回の右上肢挙上では減少する傾向がみられた。また、有意差は、左右腹斜筋ともに前回は安静時、右ASLRであったのに対し、今回は左右腹斜筋ともに右ASLRのみであった。
また、右脊柱起立筋の平均変化率では、前回、147±65%、142±48%、124±45%、今回、140±40%、131±33%、116±19%。左脊柱起立筋は、前回、142±46%、142±88%、119±10%、今回、144±38%、107±46%、123±30%といずれも、ストレッチポールで増加を示した。有意差は、左右脊柱起立筋ともに前回、今回とも安静時、右ASLRに有意差があり、今回は右脊柱起立筋の右上肢挙上において有意差がみられた。【考察】前回行った研究と同一の方法を用いて、再度ストレッチポール使用におけるアプローチと筋活動について検討した。
前回と異なる傾向は、ストレッチポールの使用において左右腹斜筋ともに、右上肢挙上時の平均変化率が減少する傾向を示した。また、右脊柱起立筋では、右上肢挙上において筋活動が増加する傾向を示した。この理由として、先行研究からもストレッチポールは胸椎伸展などのリアライメント効果が得られる(杉野2006)とされており、ストレッチポール上では体幹の屈曲作用が得られにくいことから、上肢挙上による前鋸筋の筋連結から腹斜筋の筋活動が得られにくい状況にあるためと考えられ、前回よりも右上肢挙上時の右脊柱起立筋の増加が有意となったことと関連していることも考えられる。今回は、左右腹斜筋の安静時おいて有意差がなかったことから、動作の慣れが生じた可能性も否めない。さらに、今後は右上肢挙上時の角度設定など動作の正確性を追及する必要があるとともに、ストレッチポールを用いた腹斜筋に対するアプローチは、上肢よりも下肢からのアプローチが有効であると再認識された。
また、前回と同様の傾向は、ストレッチポールの使用により左右腹斜筋の右ASLRにおいて筋活動が増加する傾向を示し、左右脊柱起立筋では、安静時、右ASLRに筋活動が増加する傾向を示した。これは、ストレッチポールによる姿勢保持筋を促通する効果が関与しているものと考えられる。
さらに、各個人間について、前回と異なる値となったことから、動作パターンが変化した可能性や先行研究からも筋電図は測定日が異なることで信頼性が低くなるといわれていることから、電極の位置のずれや皮膚抵抗、脂肪量の変化など様々な要因が考えられる。また、対象者の個人間の筋活動の違いから、個別性を重視した動作指導の必要性を再確認するものとなった。今後は、研究方法の精度を高めて検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】リハビリテーションの分野にも広く使われているストレッチポールの筋活動を分析した基礎研究である。臨床での治療効果判定の一助として活用できるものと考える。