理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-054
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一般演題(ポスター)
上下肢各関節での等尺性運動時に働いている腹横筋筋厚の違い
超音波画像を用いて
清水 洋治中崎 秀徳吉田 昂広池田 光佑
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抄録
【目的】腹横筋は四肢運動に先行して収縮することで腹圧の上昇、動的な脊柱安定化に重要である。近年、腹横筋に関する研究は数多く報告されているが、動作時における腹横筋筋厚の違いについての報告は少ない。そこで今回は、上下肢各関節での等尺性運動時に働いている腹横筋筋厚の違いについて検討したので報告する。
【方法】対象は健常男性10名とし、年齢(平均±標準偏差)は26.8±4.8歳、身長(平均±標準偏差)は171.3±3.6cm、体重(平均±標準偏差)は62.4±6.1kgであった。被験者には、背臥位での腹部へこませ運動(課題0)、足底離地の端座位での各運動課題(課題1~12)をそれぞれ2回ずつ施行し、その際の腹横筋筋厚を測定し、各肢位での安静時の腹横筋筋厚と比較検討した。腹横筋筋厚の測定は、超音波診断装置(東芝メディカル社製nemio30)を使用し、左前腋下線における肋骨縁と腸骨稜の中央にプローブが垂直になるよう、筋を圧迫しない程度に軽く接触させて横断画像を記録した。端座位での運動課題は12個あり、課題1:同側(左)肩関節90°屈曲位での肩関節屈曲、課題2:対側(右)肩関節90°屈曲位での肩関節屈曲、課題3:同側肘関節90°屈曲位での肘関節屈曲、課題4:対側肘関節90°屈曲位での肘関節屈曲、課題5:同側手関節軽度掌屈位での手関節掌屈、課題6:対側手関節軽度掌屈位での手関節掌屈、課題7:同側股関節90°屈曲位での股関節屈曲、課題8:対側股関節90°屈曲位での股関節屈曲、課題9:同側膝関節90°屈曲位での膝関節伸展、課題10:対側膝関節90°屈曲位での膝関節伸展、課題11:同側足関節0°中間位での足関節背屈、課題12:対側足関節0°中間位での足関節背屈とし、それぞれ一定出力値での等尺性運動を行わせた。筋出力の測定はハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTas-MT1)を使用し、徒手にて固定した。各運動課題時の筋出力値は代償が出ない範囲と定義し、課題1・2は3kg、課題3・4は4kg、課題5・6は3kg、課題7・8は3kg、課題9・10は5kg、課題11・12は5kgと設定した。統計処理にはSPSSver.12を用い、背臥位での安静時と腹部へこませ運動時、端座位での安静時と各運動課題時での腹横筋筋厚変化率に対して反復測定による一元配置分散分析と多重比較検定を行い、有意水準は5%とした。
【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、被験者に実験の目的・方法及び危険性等を説明し同意を得た。
【結果】腹横筋筋厚変化率[平均±標準偏差%]は、課題0:148.2±19.0、課題1:106.0±6.7、課題2:96.7±4.7、課題3:100.6±8.6、課題4:100.2±6.8、課題5:104.5±7.5、課題6:104.2±6.0、課題7:93.3±6.0、課題8:122.5±11.3、課題9:103.2±8.5、課題10:98.5±5.5、課題11:102.8±5.2、課題12:101.6±5.5であった。多重比較検定の結果、課題0が課題1~12に対して有意に高い値を示し、課題8が課題1~7、9~12に対して有意に高い値を示した。
【考察】今回の結果から、背臥位での腹部へこませ運動が端座位での四肢運動と比較して有意に腹横筋の筋厚変化率が高く、対側股関節屈曲運動が他の端座位での四肢運動と比較して有意に腹横筋の筋厚変化率が高いことが示された。したがって、腹横筋は直接的な運動の方が間接的な運動より筋活動量が高いことが示唆された。また、腹横筋はより中枢部に近い部位で、さらに対側運動時での筋活動量が高いことも示唆された。この要因の一つとして、腹横筋の付着部の影響が考えられる。腹横筋の付着部は内腹斜筋と筋連結しており、また対側股関節屈曲運動時には体幹によるカウンターウェイトでの代償が生じ得、その代償を抑えるために対側内腹斜筋、同側外腹斜筋が働くと考えられる。よって、対側内腹斜筋が働けばその同側の腹横筋も働くことが考えられ、今回の実験では対側股関節運動時に腹横筋の筋活動量が高くなったと考える。しかし実際には、今回は腹横筋のみしか測定しておらず、内腹斜筋や外腹斜筋の筋活動には着目しなかったので、四肢運動時の体幹の安定化に内腹斜筋や外腹斜筋の影響を検討する必要性は大いにあると考える。
【理学療法学研究としての意義】体幹不安定性は多くの疾患、患者で見受けられる。今回の研究結果より、体幹安定化エクササイズとして、腹部へこませ運動や代償が出ない範囲での端座位股関節屈曲運動は簡便かつ有効であることが示唆された。また、腹部へこませ運動は認知症や失語症などの患者には指示理解が困難な場合があるが、その際は指示や動作がより単純な股関節屈曲運動が体幹安定化エクササイズとしての代用ができるのではないかと考える。
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© 2010 日本理学療法士協会
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