理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-067
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一般演題(ポスター)
下腿内旋運動を誘導するリアライン・レッグプレスが健常膝の伸展位アライメントに及ぼす効果
パイロット研究
山内 弘喜蒲田 和芳
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抄録
【目的】
変形性膝関節症(以下膝OA)は60歳以上で全変形性関節症の30%を占め、年齢上昇と共にその有病率は増加する。膝OAの治療は外科的療法、保存療法、薬物療法など様々である。各々の治療方法で一定の効果が得られることは確認されてきた。しかし、変形性関節症に対する保存療法は、症状が改善するかもしれないが、進行を遅らせるという根拠は得られていない。
変形性膝関節症(以下膝OA)においてスクリューホーム運動の異常が存在する(Koga 1998)。さらに近年、精密なキネマティクス研究において、大腿骨に対する脛骨外旋の増大が指摘された(Saari 2005)。具体的には、屈曲域での下腿外旋、伸展域でのわずかな下腿外旋、そして伸展域での脛骨外方偏位が特徴的である。なお、蒲田は下腿外旋アライメントの異常は膝OAおよび若年者においても存在することを指摘し、これを下腿外旋症候群と呼んだ(蒲田2001)。これらを効果的に予防または改善する方法は、未だ確立されていない。
著者らは、下腿外旋アライメント異常に対し、関節の遊びの大きい屈曲域で正常キネマティクスを回復させることを意図し、下腿内旋を誘導しつつ膝を屈曲させるエクササイズプログラムを提唱してきた。「リアライン・レッグプレス」(GLAB社製)は、医療機関だけではなく家庭でも使用できる軽量・小型のレッグプレス装置である。これは、下腿の内・外旋を自動または他動的に誘導しつつ下肢の屈伸を行うことができ、屈曲域の下腿内旋を効果的に誘導できる。本研究では、健常膝におけるリアライン・レッグプレスを用いた下腿内旋運動が、膝関節の伸展位アライメントにどのような変化をもたらすのかを明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象は健常女性4名、膝関節に既往歴、手術歴がない者とした。関節キネマティクスの解析は、膝伸展位でのMRI画像(0.3T, 3D, RSSG, thickness: 1mm, interval:1mm)は、リアライン・レッグプレスを用いた下腿内旋運動前後に実施した。MRI画像から市販ソフト3D-Doctorを用いてセグメンテーションを行って各々の骨モデルを作成し、自作ソフトVHKneeFitterを用いて各々に解剖学的軸を定義した。Grood(1983)の関節座標の定義に従い、運動前後の6自由度での相対的な角度変化を計算した。また、運動前の骨モデルより伸展角度をデジタル傾斜計にて計測した。
【説明と同意】
被検者には研究の目的、内容、リスク、不利益に対する説明を行った。対象者の人権を擁護するため、ヘルシンキ宣言に基づき作成された同意書により署名することにより同意を得た。
【結果】
運動前の伸展角度は8.6°±2.7°(平均±標準偏差)であった。内旋運動前後には、屈曲方向に1.9°±1.5°、内転方向に3.4°±1.2°、内旋方向に2.9°±2°とアライメントが変化した。
【考察】
本研究により下腿内旋運動により、膝関節の伸展位での回旋アライメントが変化することが示唆された。また、本被検者は平均8.9°の過伸展が存在していたが、下腿内旋運動により過伸展がわずかに減少した。本研究結果は即時効果であり、内旋2.9°というわずかな変化ではあるが、簡単なエクササイズによってclose-packed positionである膝関節完全伸展位でのアライメント変化が生じたことは大きな意味がある。
本研究の結果は健常者における変化であったが、内旋増加と過伸展の減少が及ぼす影響が健常者の膝関節対して、どのような影響をもたらすかは不明である。しかし、今回得られた変化は、膝OAに対するリアライン・レッグプレスの試用を後押しする。今後、同様の研究を成長期や中高年者、膝OA患者等に実施し、アライメント変化を検証する予定である。また、現在開発中のソフトウエアにより、関節軟骨の近接領域の変化を追従し、膝OAのコンタクトキネマティクスの特性についても検証を進める予定である。

【理学療法学研究としての意義】
本研究で用いたリアライン・レッグプレスは、患者自身が家庭などで実施できる手軽な運動療法手段である。これにより、通常アライメント変化が起こらないと考えられている膝完全伸展位でアライメント変化を誘発できたことにより、そのリアライメント効果が立証された。今後、さらに対象者を広げた研究が進むことにより、下腿内旋運動が膝OAの予防および進行防止の運動プログラムとして確立される可能がある。
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© 2010 日本理学療法士協会
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