理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-068
会議情報

一般演題(ポスター)
下腿傾斜角と後足部アライメントの関係(第3報)
健常成人の歩行における分析
加藤 彩奈石原 剛島田 周輔宮城 健次及川 雄司千葉 慎一大野 範夫加茂野 有徳関屋 曻
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抄録
【はじめに】
我々は第43回、第44回本学術大会で健常者と変形性膝関節症(以下膝OA)症例の静止立位時前額面下肢アライメントを計測し、下腿傾斜角(以下LA、下腿長軸と垂直軸のなす角とする)、Leg Heel Angle(以下LHA、下腿長軸と踵骨軸のなす角とする)、内外果傾斜角の関係性を報告した。膝OA症例は歩行立脚相の疼痛を訴えることが多く、lateral thrustや足部変形が特徴的である。しかし、静止立位アライメントの特徴から歩行時のストレスを予測するまでには至っていない。今回は健常成人の歩行動作の立脚相に着目し、下腿傾斜と後足部の運動の分析を行い、運動学的な特徴を得たので報告する。
【対象と方法】
対象は健常成人女性9名、年齢20.4±1.3歳、身長157.3±5.4cm、体重48.3±5.8kgであった。
課題は自由歩行とした。歩行の計測は三次元動作解析装置(VICON)と床反力計を用い、1名の被験者に対して10試行行なった。Body BuilderにてLAとLHAを算出した後、被験者ごとに10試行の平均値を求めた。マーカーの貼り付け位置は膝関節内外側裂隙、足関節内外果、下腿遠位1/3部の中央、踵骨近位部中央、踵骨遠位部内外側の計8箇所とした。下腿長軸は内外側裂隙中央と内外果中央を結ぶ線、踵骨軸は踵骨近位部中央と遠位部内外側中央を結ぶ線とした。立脚相は床反力の垂直成分より判断し、踵接地から足尖離地までの時間を100%とし、検討は右立脚相とした。検討項目は(1)立脚相での経時的な下腿傾斜とLHAの運動方向、(2)立脚相でのLAとLHAのピーク時期、(3)立脚相でのLAとLHAの変化量とした。また、(2)についてLAとLHAのピーク時期の相関関係、(3)についてLAとLHAの変化量の相関関係を検討した。
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき倫理的配慮をし、被験者には本研究の主旨を説明した後、同意を得た。
【結果】
(1)立脚相での経時的な下腿傾斜の運動方向は、踵接地後に外側方向への運動がありピークを迎え、その後内側方向への運動が生じていた。LHAは踵接地後に回内方向の運動がありピークを迎え、その後回外方向への運動が生じていた。(2)LAのピーク時期は、立脚初期1名(33.6%)、立脚中期3名(55.3±0.4%)、立脚後期5名(66.7±2.7%)であった。LHA回内のピーク時期は、立脚初期3名(35.5±0.9%)、立脚中期4名(44.2±2.0%)、立脚後期2名(53.8±3.8%)であった。(3)LAの変化量は3.4±0.9度、LHAの変化量は7.7±2.0度であった。LAとLHAの変化量には正の相関関係が認められた(r=0.69、p<0.05)。
【考察】
下腿傾斜の経時的な運動は、外側方向への運動のピークを生じる時期により3タイプに分類できた。9名中5名は立脚後期まで徐々に外側へ動きそれ以降急激に内側方向へ動くタイプ、3名は外側への運動が立脚中期で止まり徐々に内側方向へ動くタイプ、1名は立脚初期に外側へのピークを生じるタイプであった。LHAについては、一般的には回外で接地し、衝撃吸収のために回内方向へ動き、離地で回外方向へ動くと言われているが、本研究でも同様の運動を確認できた。さらに回内方向への運動のピークを生じる時期により3タイプに分類できた。
LAとLHAのピーク時期には統計学的な関係性は認められなかったものの、9名中8名はLHAのピークはLAのピークに先立って生じていた。このことから、立脚相の前半では下腿傾斜の運動よりも踵骨の運動の方が大きく関与していると考えられる。また、下腿傾斜の外側方向の変化量とLHAの回内方向の変化量には正の相関関係が認められた。これは下腿傾斜が大きい時に足部を床面に保つためにより大きなLHA回内の運動が生じていると考えられる。
膝OA症例の歩行ではlateral thrustが立脚初期や後期に観察できたり、立脚相で回内が強く生じる症例や回内運動がほとんど起こらず回外位の症例がみられ、lateral thrustに関与すると考えられる下腿傾斜やLHAの運動が特徴的であると言える。先行研究で報告したように、健常者の静的な立位アライメントにおいてもLAとLHA回内に同様な正の相関関係が認められたが、今回の動的な歩行分析では運動パターンに差異があることが確認され、今後はこれらを膝OA症例歩行の現象に結び付けていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
膝OA保存症例の主訴は歩行立脚相の疼痛であることが多い。歩行時の膝に生じるストレスはlateral thrustが起こる時期に一致していると考えられ、膝OA症例の評価・治療を行う上で歩行分析は必要不可欠なものである。今回は健常成人の歩行動作においてlateral thrustに関与すると考えられる下腿傾斜と後足部の運動を分析し、運動学的な特徴を確認できた。これらの情報は膝OA症例の歩行分析を行う上で比較基準となるデータになると考えられる。
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© 2010 日本理学療法士協会
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