理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-088
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一般演題(口述)
脊髄小脳変性症に対する新しい理学療法
脳科学に基づく理学療法の創造
木村 浩三
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抄録
【はじめに】
脊髄小脳変性症(SCD)の理学療法として、弾性包帯や重錘負荷による方法がある。しかし、これらの方法は代償的要素が強く小脳の賦活は低い。そこで、脳科学の研究結果を読み解き小脳の賦活が認められる身体活動・脳活動から新しく理学療法(Physiotherapy Based on Brain Sciences:PTBBS)を創造した。PTBBSを症例に試行し良好な効果が得られた。
【目的】
脳科学の研究結果において、小脳が賦活する多くの身体活動・脳活動の中からPTBBSの運動課題として1)感覚識別課題、2)選択的注意による課題、3)時間的要素を含む課題、4)空間的要素を含む課題を重点に創造し、試行したPTBBSの一部を紹介する。
【方法】
SCDの症例に、PTBBSを試行し、試行前後で理学療法評価を行った。評価内容は、運動失調症のテスト(鼻指鼻・鼻指・膝打ち・手回内回外・足趾手指・踵膝・向こう脛叩打試験)・坐位バランス(エアスタビライザー上で坐位保持、同上で坐位保持での足踏み)・立位バランス(平地・前傾斜面・後傾斜面・側方斜面での立位保持)とした。また歩行実態も確認した。PTBBSの実際は、認知神経リハビリテーションの技法を変用し独自に創造した。
【説明と同意】
症例本人へPTBBSの試行について説明し同意を得て本研究を行った。また、大分県立病院リハビリテーション科の臨床研究に関する倫理審査で承認を受けた。
【症例と経過】
患者は70歳代女性。診断名はSCD。現病歴は3年前よりめまい出現、最近ふらつきが悪化し、転倒傾向が強くなった。平成21年7月15日に当院入院となる。初期評価は平成21年7月28日。PTBBS開始は同年7月31日、最終評価は同年8月25日に行った。
【理学療法の実際】
小脳が賦活する身体活動・脳活動の中からPTBBSの運動課題として、1)感覚識別課題は、下肢へ圧覚(スポンジ)、触覚(コイン)、位置覚(傾斜板)重量覚(体重計上で左右均等)などの課題を、2)選択的注意による課題は、上肢や下肢での形や線を擦る運動、下肢で順序運動、歩行では点踏み歩行を、3)時間的要素を含む課題は、上肢や下肢でリズム運動を、4)空間的要素を含む課題として上肢での積み木、ドミノ、ブロックパズルなどを試行した。
【結果】
運動失調症のテストでは、鼻指鼻・鼻指・膝打ち・手回内・回外、足趾手指試験、踵膝は陽性から陰性に、向こう脛叩打試験で左下肢は陽性で変化なかった。座位バランスでは、エアスタビライザー上での坐位保持での動揺が軽度から消失へ、同上での坐位保持で足踏みの動揺が、前後方向で重度から消失へ、左右方向で重度から軽度へ改善した。立位バランスでの動揺は、平地で軽度から消失へ、前傾斜面で軽度から消失へ、後傾斜面で転倒から軽度へ、側方斜面で軽度から消失へ改善した。歩行は歩行器介助歩行から杖監視歩行になった。
【考察】
小脳は、繊細な運動・非常に複雑な運動・新しく経験する運動・順序が決められた運動などで賦活する。小脳を賦活させるには、感覚情報(視覚・聴覚・体性感覚)を使用した身体活動・脳活動の中で、感覚情報と身体運動をいかに時間的・空間的に同調させ、規則的な運動課題を行わせるかが重要である。脊髄小脳変性症の改善にPTBBSが小脳機能の改善に効果を示す可能性は高い。
【理学療法学研究としての意義】
新しい理学療法の創造
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© 2010 日本理学療法士協会
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